
「爪が黒くなっているのに、本人はまったく痛みを感じていない」。OUR訪問看護ステーションで糖尿病のある利用者を担当していると、こうした場面に出会うことがあります。糖尿病の神経障害によって足の感覚が鈍くなると、傷やただれが生じても気づかず、見えないところで壊疽(えそ)が進行することがあります。糖尿病による足病変(糖尿病足病変)は、日本における非外傷性下肢切断の主要原因のひとつです。しかし、適切なフットケアと毎日の観察によって、そのほとんどは予防できます。この記事では、家族や介護者・訪問看護師が実践できる糖尿病フットケアの具体的な方法を詳しく解説します。
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糖尿病のフットケアとは、足病変を早期に発見し、切断に至る前に対処するための日常的な観察とケアの総称です。
糖尿病の足病変(糖尿病足病変・フットアルサー)が重篤になる背景には、必ず「3つの問題」が重なっています。
糖尿病足病変を引き起こす「3つの問題」
| 問題 | 内容 |
| 神経障害 | 痛みを感じにくくなり、傷や炎症に気づかない |
| 血流障害(末梢動脈疾患) | 足先に血液が届きにくく、傷が治りにくい |
| 感染 | 高血糖状態は白血球の働きを弱め、細菌感染を起こしやすく、進行が早い |
この3つが重なると、小さな傷や靴ずれが短期間で壊疽まで進行することがあります。特に怖いのは、神経障害で「痛みを感じない」ため、本人は「足のことが気にならない」状態が続いてしまうことです。
糖尿病の神経障害・三大合併症の詳細については「糖尿病の三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)と在宅での早期発見」をあわせてご覧ください。
毎日の「足の観察」が、すべてのフットケアの出発点です。家族が5分でできる観察ポイントをリストアップします。
糖尿病のある方が自分で足を観察するのが難しい場合(視力低下・腰が曲がりにくいなど)、家族や介護者が毎日チェックすることが命に関わる早期発見につながります。
毎日確認すべき足のチェックリスト
皮膚の状態
- 傷・ひっかき傷・靴ずれはないか
- 赤くなっている部分はないか
- 水ぶくれ(水疱)・血ぶくれはないか
- 皮膚が黒ずんでいる部分はないか
- 皮膚が乾燥してひび割れていないか
- 白く崩れている部分(白癬:水虫)はないか
爪の状態
- 爪が分厚くなっていないか
- 爪が内側に曲がって皮膚に食い込んでいないか(巻き爪)
- 爪の下が黒くなっていないか(内出血・壊死のサイン)
- 爪の周囲が赤く腫れていないか
むくみ・温度・変形
- 片足だけがむくんでいないか(感染・炎症のサイン)
- 足が冷たく白く見えないか(血流障害)
- 足が赤く熱っぽくないか(感染のサイン)
- 足の形が変わっていないか(シャルコー足など)
観察のコツ
足の裏・指の間は見えにくいので、鏡を床に置いて映したり、スマートフォンで写真を撮って確認するのが有効です。毎日お風呂の後に行うと習慣化しやすくなります。
足の洗い方・乾燥・保湿には正しい手順があります。間違ったケアが傷の原因になることもあります。
正しい足の洗い方
- お湯の温度を事前に確認する:神経障害で熱さを感じにくいため、37〜38℃ 程度のぬるめのお湯を肘でしっかり確認してから入浴・足湯する。熱いお湯や湯たんぽは低温やけどのリスクが高い
- 石けんを泡立て、柔らかいタオルや手で優しく洗う:ナイロンタオルでの強いこすり洗いは皮膚を傷つける可能性がある
- 指の間も丁寧に洗う:水虫(白癬)の温床になりやすい
- 洗った後は優しく押さえるように拭く:こすると皮膚が傷つく。指の間の水分も残さない
乾燥と保湿のケア
糖尿病では皮膚が乾燥しやすく、ひび割れ(亀裂)が傷口になることがあります。
- 入浴後に保湿クリーム(尿素入りクリームなど)を足全体に塗る
- 指の間は塗らない:湿潤環境が水虫・感染の原因になる
- 保湿した後は靴下を履いて乾燥を防ぐ
爪の切り方・靴の選び方が、糖尿病足病変の予防に直結します。
爪の正しい切り方
| 正しいケア | 避けるべき行為 |
| 入浴後など、爪が柔らかくなってから切る | 乾燥した状態で切る(割れる・深爪になりやすい) |
| 爪先をまっすぐ(スクエアカット)に切る | 角を深く丸く切る(巻き爪の原因) |
| 爪の端を少し残す(爪の先が指の肉より少し長めに) | 深爪(皮膚を傷つけるリスク) |
| 明るい場所で拡大鏡を使って慎重に | 暗い場所や視力の低下した状態での爪切り |
爪が厚くなっている・巻き爪・深爪している場合は、フットケア専門の看護師や訪問看護師に依頼してください。無理に自己処置すると傷をつけることがあります。
靴の正しい選び方と履き方
足病変の原因の多くは「靴が合っていない」「靴の中に異物が入っていた」「靴ずれ」です。
靴の選び方
- 幅が十分ある(指が圧迫されない)
- 爪先に指1本分のゆとりがある
- 靴底がクッション性がある
- 中敷きで圧力が分散される
- かかとがしっかり包まれている
履く前のチェック習慣
- 毎回、靴の中に手を入れて異物(砂・石・縫い目の突起)がないか確認する
- 靴下なしで靴を履かない(素足では靴ずれ・傷ができやすい)
- 靴下は縫い目のないものか、縫い目が外側にあるものを選ぶ
- 新しい靴は長時間履かず、少しずつ慣らす
裸足で歩かない
家の中でも、床に落ちた物を踏んで傷になることがあります。室内用のサンダル(かかとがあるもの)を常に履く習慣をつけましょう。
「すぐに受診が必要なサイン」と「絶対やってはいけないこと」を家族は覚えておいてください。
すぐに受診・相談が必要なサイン
以下の状態が見られたら、その日のうちに主治医か訪問看護師に連絡してください。
- 足に赤み・腫れ・熱感があり、範囲が広がっている
- 傷から膿(うみ)・滲出液が出ている
- 傷の周囲が黒ずんでいる(壊死)
- 足が急に白くなった・紫色になった(血流障害の可能性)
- 発熱がある(感染が全身に広がっているサイン)
- 傷が1週間以上治らない
絶対にやってはいけないこと
| やってはいけない行為 | 理由 |
| タコや魚の目を自分でカミソリや爪切りで削る | 傷をつけると壊疽の原因になる |
| 水虫の皮を自分でめくる・傷つける | 感染が広がるリスクがある |
| 傷に熱いお湯・消毒液(ヨードチンキ)を直接かける | 組織を傷つけ治癒を遅らせる |
| 電気あんかや湯たんぽを足元に使う | 低温やけどのリスクが高い |
| 素足でサンダルや草履を履く | 靴ずれ・傷の原因になる |
| 傷があるのに放置する | 1〜2日で深刻な状態になる可能性がある |
訪問看護師によるフットケアの具体的な内容と、在宅で行うメリット
OUR訪問看護ステーションの看護師は毎回の訪問時に、利用者の足を視診・触診で確認します。「先週は問題なかったのに今日見たら皮膚が赤くなっていた」という変化も、訪問看護師が早期に気づくことで、壊疽を未然に防いだ事例が実際にあります。
訪問看護師が行うフットケアの例
- 足全体の視診:色・むくみ・皮膚の状態・傷・爪の確認
- 感覚の評価:10gモノフィラメントや振動覚検査で神経障害の程度を確認
- 爪切り・爪ヤスリ:厚爪・巻き爪の処置
- 皮膚の保湿ケア:乾燥・ひび割れへの対処
- 胼胝(タコ・魚の目)の観察と処置相談:必要に応じて医師と連携
- 家族への観察指導:「この色になったら連絡してください」など具体的なラインを伝える
- 受診調整:悪化の兆候があれば速やかに主治医・皮膚科・形成外科へ橋渡し
在宅でのフットケアは、利用者が「いつも履いている靴」「実際に歩いている床の環境」を確認しながら行えるため、病院での指導よりも現実的なアドバイスができるという強みがあります。
フットケアを「毎日の習慣」にするための具体的な工夫
「毎日確認しましょう」と言われても、どのように日常に組み込むかが難しいのが現実です。以下の工夫が続けやすいと好評です。
- お風呂後の保湿と観察をセットに:入浴直後にクリームを塗る時間が観察のタイミング
- 訪問看護師の訪問後に家族が続けて確認:「今日は看護師さんが見てくれたから大丈夫」ではなく、翌日・翌々日も確認
- 毎日の記録:スマホで写真を撮って週1回まとめて比較すると変化に気づきやすい
- 靴を履く前のチェックを玄関の習慣に:玄関に「靴の中を確認する」メモを貼る
よくある質問
Q. 水虫(白癬)があります。どうすればよいですか? A. 糖尿病の方の水虫は傷口から細菌が入る感染源になるため、早めに治療することが重要です。皮膚科を受診し、抗真菌薬(外用・内服)で治療してください。水虫の治療中も足の観察を続け、傷や悪化があれば医師に相談してください。
Q. 爪が分厚くなって切れません。どうしたらよいですか? A. 肥厚爪(ひこうそう)は自己処置が難しく、無理に切ろうとすると傷つくリスクがあります。訪問看護師に相談するか、フットケア外来(皮膚科・形成外科)を受診してください。OURの看護師も爪ケアに対応しています。
Q. 巻き爪があります。痛みはないのですが、放置してよいですか? A. 糖尿病の方の巻き爪は放置禁物です。神経障害があると痛みを感じないまま炎症・感染が進むことがあります。皮膚科・形成外科・フットケア専門外来で処置を受けることをお勧めします。
Q. タコや魚の目は、市販の薬で自分で除去してよいですか? A. 糖尿病の方への市販の「サリチル酸絆創膏」の使用はお勧めできません。周辺の正常な皮膚まで溶けて傷になるリスクがあります。必ず医師・看護師に相談して処置してもらってください。
Q. 訪問看護師にフットケアを頼むにはどうすればよいですか? A. かかりつけ医(主治医)に「フットケアを含めた訪問看護指示書」を発行してもらうことで利用できます。介護保険または医療保険が適用されます。OUR訪問看護ステーション(宮崎市・国富町・高岡町・綾町対応)では、糖尿病フットケアを専門的に行っています。まずはお気軽にご相談ください。
Q. 足に傷ができてしまいました。病院に行くまで自宅でどうすればよいですか? A. まず清潔な流水で優しく洗い、清潔なガーゼや絆創膏で保護してください。消毒液(ヨードチンキなど)は傷を悪化させる可能性があるため使わないでください。次に必ず主治医か訪問看護師に連絡してください。糖尿病の傷は一般の方より悪化が速いため、「少し様子を見よう」は危険です。
このシリーズの他の記事もあわせてご覧ください
- 糖尿病とは何か。種類・症状・診断基準をわかりやすく解説
- 糖尿病の三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)と在宅での早期発見
- 高齢者の糖尿病管理。低血糖リスクと訪問看護師が行う支援
- 在宅での血糖測定とインスリン注射。訪問看護師ができるサポートとは
参考: 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」・日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会「糖尿病標準診療マニュアル2026」
この記事を監修した人
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