
「親の家に帰るたびに、ヒヤッとする場所がある」在宅介護をしているご家族から、こんな声をよく聞きます。段差でつまずきそうになる玄関、濡れた床で滑りそうな浴室、夜中にトイレへ向かう暗い廊下。住み慣れた家は、高齢になるほど「慣れ親しんだ危険」が潜む場所に変わっていきます。
加齢とともに体の機能は変化します。筋力が落ち、バランスが崩れやすくなる。視力が低下し、段差が見えにくくなる。認知機能が低下すると、慣れた空間でも混乱が生じることがあります。住まいの環境を「今の体に合わせて」整えることが、在宅での安全な生活を続けるための土台になります。
この記事では、加齢・認知機能・身体面それぞれの視点から、高齢者が安心して暮らせる住環境の整え方を具体的に解説します。利用できる制度や専門職のサポートについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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加齢とともに変わる体と、住まいに潜むリスク
住まいの危険を正しく認識するためには、まず「加齢によって体がどう変わるか」を知ることが大切です。以前は問題なかった場所が、今の体には危険になっていることがあります。
転倒が高齢者にとって「命取り」になる理由
高齢者の転倒は、若い人の転倒とは意味が違います。骨密度の低下により、少しの衝撃でも骨折しやすくなっているためです。特に大腿骨(太ももの付け根)の骨折は、寝たきりのきっかけになることが多く、その後の生活を大きく変えてしまいます。
転倒事故の約半数は「自宅内」で起きています。しかも、外出中ではなく、普段の生活動作の中で起きているケースがほとんどです。トイレへ行く途中、浴室から出るとき、起き上がるとき。何気ない動作の中に、転倒のリスクが潜んでいます。
加齢とともに進む筋力低下(サルコペニア)やバランス能力の低下は、転倒リスクを高める主な要因です。さらに、複数の薬を服用している高齢者では、薬の副作用によるふらつきも転倒の原因になることがあります。
認知機能の低下が、住まいの危険を高める
認知機能が低下すると、住まいの「使い方」に変化が生じます。慣れた動線を忘れてしまう、危険なものと安全なものの区別がつきにくくなる、夜中に起き上がって目的地を見失う。こうしたことが、事故につながります。
認知症の方は、住環境に混乱の要因があると不安や興奮(BPSD)が強まることがあります。逆に言えば、環境を整えることで落ち着いて生活できるケースも多いのです。「住まいの整備」は認知症のケアとしても重要な意味を持ちます。
視力・聴力・感覚の変化で「気づきにくく」なること
加齢による視力の低下は、段差や障害物の見え方に影響します。特に「コントラスト感度」が落ちると、床と段差の境目が見えにくくなります。暗い場所での視力低下も著しく、夜間の移動が危険になります。
また、足の裏の感覚が鈍くなると「地面の感触」がつかみにくくなり、バランスを崩しやすくなります。「滑る感覚」に気づく前に転倒してしまうことも。こうした感覚の変化は本人も気づきにくいため、周囲が環境を整えることで補う必要があります。
場所別・住環境の危険ポイントと今すぐできる対策

高齢者の転倒・事故が多い場所には傾向があります。場所ごとに具体的な危険ポイントと対策を整理しました。すぐにできるものから、リフォームが必要なものまで幅広く紹介します。
浴室・脱衣所:最も事故が多い場所
高齢者の住宅内事故で最も多いのが浴室です。濡れた床、洗い場と浴槽の段差、浴槽をまたぐ動作。すべてが転倒リスクと直結しています。さらに、入浴中は体温変化や脱水により血圧が変動しやすく、めまいや失神を起こすことがあります。
浴室・脱衣所の対策:
- 浴槽の横・洗い場の壁に手すりを設置する(縦・横・斜めの組み合わせが安全)
- 浴槽内・洗い場に滑り止めマットを敷く
- シャワーチェア(浴室用椅子)を活用し、立ちっぱなしを避ける
- 浴槽への出入りに「バスボード」を使うと、またぐ動作が軽減できる
- 脱衣所と浴室の温度差を減らす(冬はヒートショックに注意)
- 照明を明るくし、スイッチの位置をわかりやすくする
トイレ:夜間の使用が特に危ない
高齢になると夜間のトイレが増えます(夜間頻尿)。暗い中で起き上がり、ふらつきながらトイレへ向かう。この動作が、深夜の転倒事故を引き起こします。便座からの立ち上がりも、筋力が落ちていると非常に負担がかかります。
トイレの対策:
- 便座の横に縦型の手すりを設置する(立ち上がりをサポート)
- センサーライトを廊下・トイレ入口に設置し、夜間の暗がりをなくす
- 便座を「温水洗浄便座」に変えると、紙を取る動作・立ち上がりが楽になる
- ポータブルトイレを寝室近くに置くことも、夜間移動のリスク軽減になる
- 床の滑り止めマットを敷く(特に洋式トイレの足元)
廊下・階段・玄関:移動経路の安全を確保する
廊下は「移動のための空間」ですが、障害物が多く、足元が暗くなりがちな場所でもあります。階段は、上り下りのたびに転落リスクがあります。玄関の段差(上がり框)は意外と大きく、足がつまずくきっかけになります。
廊下・階段・玄関の対策:
- 廊下の両側または片側に手すりを設置する(壁に固定するタイプが安定)
- 段差には「段差スロープ」や「踏み台」を設置して緩やかにする
- 階段には手すりを必ず設置し、段の縁に滑り止めテープを貼る
- 廊下に荷物・コード類を置かない(つまずきの原因になる)
- 玄関に腰をかけられる「玄関台・椅子」を置き、靴の着脱を楽にする
- センサーライトで夜間の足元を明るくする
居室・寝室:起き上がりと夜間の移動が鍵
寝室での転倒は、起き上がる瞬間と夜間の移動時に集中します。布団から起き上がるときに体がふらつく、ベッドの高さが合っていなくて足が床についていない、暗がりで方向感覚を失う。こうしたことが事故につながります。
居室・寝室の対策:
- 布団よりもベッドのほうが起き上がりやすい(床からの高さ40〜45cmが目安)
- ベッドサイドに手すり・グリップを設置する
- ベッドからトイレまでの動線上にセンサーライトを置く
- 床に物を置かない、ラグ・カーペットは端が引っかからないよう固定する
- 起き上がりを助ける「ベッド用サイドレール」「介護用起き上がりベルト」を活用する
認知機能を考慮した住まいづくりと、宮崎市で活用できる制度・専門職サポート

身体面の対策に加えて、認知機能の低下にも対応した住環境を整えることが、より安全な在宅生活につながります。また、住環境を整える際に利用できる公的制度や専門職のサポートについても知っておくと、一人で抱え込まずに取り組めます。
認知症のある方の住環境:混乱を減らす3つの工夫
認知機能が低下すると、「どこに何があるか」「ここは何をする場所か」という空間の認識が難しくなることがあります。住環境を整える際には、混乱を減らし、自分でできることを維持できる工夫が重要です。
①わかりやすい動線と表示
トイレのドアに大きく「トイレ」と書いたプレートを貼る、洗面台の鏡に「ここで顔を洗います」と書いたメモを貼るなど、場所の目的を視覚的にわかりやすくする工夫が有効です。文字だけでなく、絵やイラストを使うとより伝わりやすくなります。
②危険なものを見えないところに置く
包丁・薬・洗剤・マッチ・ライターなど、誤操作や誤飲・誤食のリスクがあるものは、鍵付きの棚や手の届かない場所に収納します。「見えなければ触らない」という特性を、安全のために活用します。ガスコンロにはガードや自動消火機能つきのものを選ぶと安心です。
③玄関の外出を防ぐ工夫(徘徊対策)
徘徊リスクがある方には、玄関の鍵を二重にする、チャイムや離床センサーで外出を知らせる仕組みをつくるなどの対策が有効です。「出口をわかりにくくする」工夫(扉を壁と同色にするなど)も一定の効果があります。ただし、火災などの緊急時に脱出できることを最優先に考えた設計が必要です。
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介護保険の「住宅改修費」制度:最大18万円の給付
住まいの改修には費用がかかりますが、介護保険を使った「住宅改修費の支給」という制度があります。要介護・要支援の認定を受けた方が対象で、手すりの設置・段差解消・床材の変更・引き戸への変更などが対象になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支給上限額 | 20万円(1割負担の場合、自己負担は2万円) |
| 対象者 | 要支援1〜2・要介護1〜5の認定を受けている方 |
| 対象工事の例 | 手すりの設置、段差の解消、滑り止め床材への変更、引き戸・折り戸への扉変更、和式→洋式トイレへの変更など |
| 申請先 | 担当のケアマネジャーまたは市区町村の介護保険窓口 |
| 注意点 | 工事前に申請・承認が必要。事後申請は原則不可 |
この制度は生涯に一度・20万円まで使えます(転居した場合や要介護度が3段階以上上がった場合はリセット可能)。費用の見積もりが20万円を超える場合も、超えた分を自費で補えば対応できます。まずはケアマネジャーに相談するのが最初のステップです。
理学療法士・作業療法士による住環境評価とは
住環境の整備を検討するとき、「どこを、どう直せばいいか」の判断は専門的な視点が欠かせません。理学療法士(PT)や作業療法士(OT)は、身体機能と生活動作の両面から住環境を評価できる専門職です。
実際に自宅を訪問し、本人の動き方・バランス・移動のパターンを見ながら、「この場所に手すりがあると安全」「この動線を変えると転倒リスクが下がる」という具体的な提案をします。カタログや図面だけでは見えない「その人の生活の実態」に合わせた提案ができることが、専門職の強みです。
OURの訪問看護・訪問リハビリでは、理学療法士と作業療法士が在籍しており、住環境の評価と改善提案を訪問ケアの中で行っています。「転倒が心配だけど、どこから手をつければいいかわからない」というご家族には、まず専門職による現地確認をおすすめしています。手すりの位置や高さも、実際の動作を見ながら決めることで、本当に使いやすい環境が実現します。
福祉用具の貸与・購入制度も活用する
住宅改修とあわせて、介護保険の「福祉用具貸与」「特定福祉用具販売」制度も活用できます。手すり(据置型)・歩行器・歩行補助つえ・スロープ・特殊寝台(介護ベッド)・移動用リフトなどが貸与の対象です。腰掛便座・シャワーチェア・入浴用いすなどは特定福祉用具販売の対象で、年間10万円を上限に1〜3割負担で購入できます。
どの用具が適切かは、担当のケアマネジャーや理学療法士・作業療法士が相談に乗ります。「とりあえず手すりをつければいい」ではなく、その人の動作パターンと生活空間に合わせた選択が、本当に安全な住環境への近道です。
よくある質問
- 高齢者の転倒事故の約半数は自宅内で起きており、浴室・トイレ・廊下・寝室が特に危険な場所
- 加齢による筋力低下・視力低下・感覚の鈍化が転倒リスクを高め、認知機能の低下は住まいでの混乱・危険行動につながる
- 手すりの設置・段差解消・センサーライト・滑り止めなど、身体面と認知面の両方に対応した環境整備が重要
- 介護保険の住宅改修費(最大18万円給付)・福祉用具貸与制度を活用することで、費用を抑えながら対策できる
- 理学療法士・作業療法士による現地の住環境評価を活用すると、その人の動作に合った本当に安全な環境づくりができる
「まだ大丈夫」と思っているうちに環境を整えておくことが、転倒・事故を未然に防ぐ最善の方法です。住環境の見直しや訪問リハビリについて気になることがあれば、OURへお気軽にご相談ください。専門スタッフが現地で一緒に考えます。
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