
「退院するとき、2時間ごとに体位変換してと言われた。夜中も起きてやらなければいけないの?」「背中が赤くなっているのに気づいたけど、これはもう床ずれ?」こうした声は、在宅介護を始めたご家族からOURに寄せられる相談の中でも、とくに多いものです。
褥瘡(床ずれ)は一度できると治癒に長期間かかります。しかし、正しい知識と少しの工夫で、家庭でも確実に予防できます。この記事では、褥瘡の予防に必要な「4つのケア」の具体的な手順と、一人で抱え込まずに専門家を活用する方法を、宮崎市OUR訪問看護ステーションの看護師・作業療法士の現場経験をもとに解説します。
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褥瘡が在宅でできやすい理由と、家族が把握すべきリスク因子
褥瘡(床ずれ)は、皮膚の同じ部位が長時間圧迫されることで血流が途絶え、皮膚・皮下組織が壊死・損傷した状態です。在宅療養では、病院と違いスタッフが24時間常駐していないため、家族がリスクを理解して日常ケアに組み込むことが予防の鍵になります。
日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)」では、褥瘡発生の主因として「圧迫」「ずれ」「湿潤」の三要因が示されています。
| 要因 | 具体的な状況 |
|---|---|
| 圧迫 | 同じ体勢で長時間横たわる。仙骨・かかと・耳介・肩甲骨などの骨突出部に集中する |
| ずれ | ベッドの頭部を上げると、体が下にずれながら皮膚だけが引き伸ばされる |
| 湿潤 | 失禁・発汗・傷の浸出液などで皮膚が長時間濡れた状態になる |
褥瘡ができやすい人の特徴
以下の要因が重なるほど、褥瘡が短期間で発生します。特に退院直後・体調が安定していないときは注意が必要です。
- 自力で寝返りが打てない(または打つ回数が極めて少ない)
- 低栄養・体重減少・低アルブミン血症がある
- 皮膚が乾燥・菲薄化している(高齢者・ステロイド長期使用者)
- 糖尿病・末梢循環障害・慢性心不全がある
- 失禁(尿・便)がある
- 意識レベルが低下しており、自ら不快を訴えられない
「うちの親は自分で動けるから大丈夫」と思っていても、骨が突出した部位に体重がかかり続ければ褥瘡は起きます。OURの訪問看護師が在宅を訪問する中でも、「気づいたら発赤していた」という報告を受けることが少なくありません。
家族がすぐに始められる褥瘡予防の4本柱
褥瘡予防の基本は、「除圧」「スキンケア」「栄養管理」「環境整備」の4つです。この4本柱を日常ケアの中に組み込むことで、褥瘡の発生リスクを大きく下げられます。
① 除圧:体位変換とポジショニング
体位変換とは、同じ部位への圧迫を避けるために定期的に体の向きを変えることです。一般的なガイドラインでは通常のマットレス使用時に2時間ごとが目安とされていますが、これは”必ず2時間ごとに起こさなければならない”という絶対ルールではありません。
OURで実際に行っているのは、訪問看護師が初回に本人の状態を評価し「この方はどのくらいの間隔でよいか」を個別に判断することです。体圧分散マットレス(エアマット)を導入している場合は、4時間ごとでも許容されるケースがあります。夜中に家族が毎時間起きることは現実的でなく、むしろ介護者の疲弊が在宅生活の継続を脅かします。
体位変換の基本手順:
- 仰臥位(あお向け)から30度側臥位(斜め横向き)に傾ける
- 背中・腰・膝の間にクッション・タオルを挟んで体を安定させる
- かかとは必ずマットレスから浮かせる(クッションを挟む)
- 首の角度が不自然にならないよう枕を調整する
30度側臥位は仙骨への圧力を分散しながら、骨突出部の骨が直接当たりにくい体勢です。完全な横向き(90度)よりも大転子部への圧迫が少ないため、長時間の保持に向いています。
② スキンケア:清潔・保湿・保護の3ステップ
皮膚の状態を整えることで、同じ圧力でも褥瘡になりにくくなります。高齢者の皮膚は薄く乾燥しやすいため、日常的な保湿が特に重要です。
毎日のスキンケアの手順:
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 清潔 | 失禁後は温かいお湯で洗浄し、清拭後は十分に乾燥させる。ゴシゴシ拭かない |
| 保湿 | 入浴後・清拭後に保湿ローションを全身に塗る。骨突出部は念入りに |
| 保護 | 発赤している部位にはドレッシング材(シリコーンフォームなど)を貼って摩擦を軽減する |
失禁がある方は、撥水性の皮膚保護クリーム(バリアクリーム)を肛門周囲・臀部に塗布することで皮膚の浸潤を防ぎます。市販品では「ベビーワセリン」や皮膚科で処方される保護クリームが使われることもあります。
③ 栄養管理:タンパク質と水分が皮膚を守る
栄養不足の状態では皮膚が弱くなり、同じ圧力でも褥瘡が起きやすくなります。また、できてしまった褥瘡は栄養状態が悪いと治癒が大幅に遅れます。
褥瘡予防において特に重要な栄養素は以下のとおりです。
- タンパク質:皮膚・筋肉の材料。魚・肉・卵・豆腐・乳製品を毎食取り入れる
- 亜鉛:傷の修復に関与。牡蠣・豚肉・牛肉・ナッツ類に多く含まれる
- ビタミンC:コラーゲン生成を助ける。野菜・果物・ブロッコリー
- 水分:1日1,000〜1,500mLを目安に。皮膚の乾燥を内側から防ぐ
食欲が落ちている場合は、栄養補助食品(カロリーメイトゼリー・メイバランスなど)を活用することも現実的です。「食べないから栄養は考えなくていい」ではなく、食べられる量の中でタンパク質と水分を優先する工夫をしてください。
④ 環境整備:適切な寝具と介護用品の選択
ベッドと体の間に置くマットレスの種類が、褥瘡リスクに大きく影響します。
| マットレスの種類 | 特徴 | 対象 |
|---|---|---|
| ウレタンフォーム(標準) | 安価・コンパクト。自力体位変換できる方向き | 低リスク |
| 体圧分散マットレス(ウレタン) | 体圧を面で分散。介護保険レンタル対象 | 中リスク |
| 交互エアマットレス(動的) | セルが交互に膨らみ圧迫部位を自動変換 | 高リスク・全介助 |
介護保険が利用できる方は、体圧分散マットレスやエアマットレスをレンタルで使うことができます(要介護2以上で、一定の条件あり)。購入より費用負担が少なく、状態の変化に合わせて機種変更もできます。ケアマネジャーに相談してください。
また、車いすに長時間座ることも仙骨・坐骨への圧迫になります。車いすクッション(エアクッション・ジェルクッション)の使用もあわせて検討してください。
「皮膚が赤くなっている」と気づいたとき。家族がすべき段階別の対応
褥瘡を早期に発見するには、入浴・清拭のたびに全身の皮膚を観察する習慣が大切です。特に以下の部位は毎日確認してください。
よく褥瘡ができる部位(確認ポイント):
- 仙骨部(臀部の中央・尾てい骨あたり):最も多い
- かかと:全体重がかかりやすく骨突出が強い
- 大転子部(腰の側面の骨が出た部分):横向き寝で当たる
- 耳介・後頭部:同じ向きで長時間横になる場合
- 肩甲骨・肘・膝の外側
発赤(赤み)を発見したとき
発赤が見られても、すぐに悪化するとは限りません。まず次の確認をしてください。
- 指で赤い部分を数秒押す:押して白くなれば血流がある(一時的な発赤で改善の余地あり)
- 押しても白くならない、または紫・黒みがかっている:血流が止まっている可能性。早急に訪問看護師・医師に連絡
- 皮膚に水疱(水ぶくれ)ができている:自分でつぶさず、早期に専門家へ
発赤の段階(ステージd0〜d1)であれば、除圧を徹底することで数日で改善することがあります。しかし、皮膚が破れている・じくじくしている段階(d2以上)になると、家庭だけで対応するには限界があります。
訪問看護師や医師にすぐ連絡すべきサイン:
- 皮膚が破れている、または皮がめくれている
- 傷から液体(滲出液)が出ている
- 褐色・黄色・黒色の壊死組織が見える
- 傷の周囲が熱を持って腫れている(感染の疑い)
- 発熱を伴っている
感染が疑われる褥瘡は、早期の医療介入が必要です。「様子を見よう」と判断するより、迷ったら早めに相談することをOURでも強くお勧めしています。
一人で抱え込まないために。訪問看護師・ケアマネに頼れること
褥瘡予防は、「家族が一人で完璧にやらなければならない」ものではありません。訪問看護師・ケアマネジャー・かかりつけ医がチームで支えます。
OURが訪問看護として行っている褥瘡関連のサポートは以下のとおりです。
- 初回評価:褥瘡リスクのスクリーニング(ブレーデンスケール等を使用)。高リスクと判断された場合は、主治医と連携して体位変換の頻度・エアマット導入を提案
- 家族指導:体位変換の手順・スキンケアの方法を実際にやってみせながら指導。「これで合っているか?」という不安を一緒に解消する
- 傷の処置:すでに褥瘡が発生している場合は、主治医の指示のもとで洗浄・ドレッシング材の交換を行う
- 連絡体制:OURは24時間オンコール対応。「急に傷が悪化した」「夜中に赤みが広がっている気がする」といった相談にも対応可能
「2時間ごとの体位変換」という一般的な指示が、そのご家族にとって現実的かどうかを一緒に考えること——これがOURが大切にしている関わり方です。
たとえば宮崎市で老老介護をしているご夫婦のケースでは、体圧分散マットレスの導入と訪問看護の週3回体位変換指導を組み合わせることで、家族の夜間起床を最小限にしながら褥瘡ゼロを維持できた事例があります。ひとつの正解を押し付けるのではなく、その家庭に合った方法を一緒に見つけることが訪問看護師の役割です。
こんな方はOURにご相談ください:
- 退院後に「褥瘡予防をするように」と言われたが何から始めればよいかわからない
- 皮膚が赤くなっているが、これが褥瘡なのかどうか判断できない
- 夜中の体位変換が必要で、家族が疲れ切っている
- エアマットを使うべきか、どの種類がよいかアドバイスがほしい
- すでに褥瘡があり、在宅での処置を専門家に頼みたい
まとめ
- 褥瘡は「圧迫・ずれ・湿潤」が重なることで発生する。リスクを把握して先手を打つことが重要
- 予防の4本柱は「除圧(体位変換)」「スキンケア(清潔・保湿)」「栄養(タンパク質・水分)」「環境整備(体圧分散マットレス)」
- 体位変換の頻度は「2時間ごと」が絶対ではなく、状態・マットレスの種類・介護力によって個別に判断する
- 皮膚が赤い段階で気づき、押しても白くならない・皮膚が破れている場合は早急に専門家へ連絡する
- 一人で完璧にやろうとしない。訪問看護師・ケアマネに早めに相談することが、在宅介護を長く続ける秘訣
今日できる一歩:今夜の清拭や体位変換のときに、かかと・仙骨・耳介を指で押して確認してみてください。白くなれば今は問題なし。不安なときはOURに電話一本、相談できます。
宮崎市全域、国富町、高岡町、綾町対応
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よくある質問
褥瘡の予防に2時間ごとの体位変換は絶対に必要ですか?
「2時間ごと」はあくまでも標準的な目安であり、絶対ルールではありません。体圧分散マットレス(エアマット)を使用している場合や、本人の動きが多少ある場合は、4時間ごとでも許容されることがあります。大切なのは、皮膚を観察して赤みや変化がないかを確認することです。頻度については訪問看護師に相談し、その方に合ったスケジュールを決めることをお勧めします。夜中に毎時間起きることで介護者が疲弊することも、在宅生活の継続にとってリスクになります。
かかとが赤くなっています。これは床ずれですか?
かかとは骨が皮膚の真下にある部位で、仰向けに寝ていると体重が集中しやすく、褥瘡が発生しやすい場所のひとつです。赤みが出たとき、指で数秒押して「白くなればすぐ元に戻る」場合は一時的な充血(反応性充血)のことがあります。しかし、押しても白くならない・紫色がかっている・皮膚が破れているなどの状態であれば、すでに褥瘡が始まっている可能性があります。かかとは特に悪化が速い部位ですので、早めに訪問看護師または主治医に診てもらうことをお勧めします。今後の予防としては、かかとをマットレスから浮かせるクッション(かかとプロテクターなど)の使用が効果的です。
褥瘡予防にどんなクリームや保湿剤を使えばいいですか?
高齢者の皮膚は薄く乾燥しやすいため、無香料・低刺激の保湿ローションであれば市販品でも使用できます。処方薬としてはヒルドイドローション・ヘパリン類似物質配合クリームがよく使われます。ドラッグストアで手に入るものでは白色ワセリンが皮膚保護として使いやすいです。骨突出部など特に保護が必要な部位には、シリコーン系の薄いドレッシング材(メピレックスボーダーなど)を貼ると摩擦・ずれを軽減できます。主治医や訪問看護師に相談すれば、状態に合った製品を提案してもらえます。
在宅でエアマットはレンタルできますか?費用はどのくらいですか?
体圧分散用のエアマットレス(動的エアマット)は、介護保険の「福祉用具貸与」として要介護2以上の方がレンタルできます(要介護1以下でも例外的に認められる場合があります)。自己負担は1割〜3割で、月額1,000〜3,500円程度が目安です(機種・事業者により異なります)。ケアマネジャーがケアプランに組み込めば手続きができます。まだ訪問看護・居宅介護支援を利用していない場合は、OURにご相談いただければ連携先のケアマネジャーをご紹介することも可能です。
褥瘡が悪化して膿が出てきました。自宅で処置できますか?
膿が出ている状態(感染徴候)は、自宅での家族による処置だけで対応するには限界があります。感染した褥瘡は敗血症に進行するリスクがあり、医師による診断と抗菌薬などの治療が必要になることがあります。まず主治医に連絡して訪問診療または外来受診を調整してください。訪問看護師がいる場合は、傷の状態の写真を撮って連絡することで、緊急度の判断をすぐに仰ぐことができます。OURは24時間オンコール対応ですので、夜間でも相談可能です。
食欲がない高齢者に「褥瘡予防の栄養」と言ってもどうすればいいですか?
食欲がない方に無理に食べさせることは逆効果になることがあります。まず1食の量を減らして回数を増やす(少量頻回食)、液体やゼリー状で摂りやすくするなどの工夫を試してみてください。高齢者向けの栄養補助食品(アイソカルゼリーやメイバランスなど)はコンビニやドラッグストアでも購入でき、少量でタンパク質・カロリー・亜鉛を補えるため使いやすいです。食欲不振の原因が口腔トラブル・薬の副作用・うつ症状などである場合は、原因に応じたアプローチが必要です。訪問看護師が介入している場合は、栄養状態のアセスメントと主治医への情報共有も行っています。
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参考文献一覧
- 褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)(日本褥瘡学会)https://www.jspu.org/
- 介護保険における福祉用具貸与の対象種目(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html
- 在宅褥瘡予防・管理の手引き(日本褥瘡学会)https://www.jspu.org/