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ともにつくるケアノート— あなたらしさを支える訪問看護のかたち —

シェアード・ディシジョン・メイキングとは|在宅医療・訪問看護で「本人の意思」を守る意思決定支援のプロセス

「病院で治療方針を説明されたとき、何を選べばいいのかわからなかった」「本人は何も言わず、家族だけで胃ろうを決めた。あれで本当によかったのか、今も心に引っかかっている」OURの訪問看護師は、そんな声を日常の訪問の中でたびたび耳にします。

シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM:Shared Decision Making)とは、医療者と患者・家族が情報と価値観を共有しながら、ともに最善の意思決定を行うプロセスです。「医師が決めて患者が従う」時代から、「本人の意思・価値観を中心に置いた医療」へ、という転換を支える考え方です。

この記事では、SDMとは何か・訪問看護との関係・実践的な進め方・ACP(人生会議)との違い・家族が代わりに決める場合の注意点まで、OURの現場経験を交えて解説します。「自分(または大切な人)の意思が、医療にきちんと反映されているか」が気になっている方にとって、役立つ一冊になれば幸いです。

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シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)とは|定義・背景・3つのステップ

SDM(Shared Decision Making)とは、「医療者と患者・家族が対等なパートナーとして情報・エビデンス・価値観を共有し、ともに最善の意思決定を行うプロセス」です。日本語では「共有意思決定」「共同意思決定」と訳されます。

従来の医療モデルは、「医師が最良の治療法を選んで患者に伝え、患者がそれに同意する」という構造でした。これをパターナリズム(父権主義的医療)と言います。医師が豊富な知識と経験を持つ専門家として、患者に代わってベストを判断するという考え方です。

しかしこのモデルには限界があります。「医学的に最良」の選択が、「その人の生活・価値観にとって最良」とは限らないからです。たとえば、「手術すれば5年生存率が上がる」という医学的事実があっても、「術後の機能低下で大好きな畑仕事ができなくなるなら、手術より緩和ケアを選びたい」という本人の価値観があるかもしれません。SDMはこの「医学的事実」と「本人の価値観」を両方テーブルに乗せて、ともに決定する仕組みです。

SDMの3ステップ:チョイス・オプション・デシジョン

医療倫理研究者Elwynらが2012年に提唱したモデルでは、SDMは次の3段階で進みます。

① Choice Talk(チョイストーク:選択肢があることを伝える) 「この状況では、いくつかの選択肢があります」と最初に伝えます。患者・家族が「実は選べる」ということを知らないまま「先生に任せます」と言ってしまう場面は非常に多いです。まず「あなたには選ぶ権利がある」と伝えることが出発点です。

② Option Talk(オプショントーク:各選択肢の内容を共有する) 各選択肢のメリット・デメリット・リスク・生活への影響を、患者・家族が理解できる言葉で丁寧に説明します。医学的なデータだけでなく、「この選択をしたら自宅での生活はどう変わるか」「家族の介護負担はどう変わるか」という生活レベルの話が重要です。患者・家族は「自分がどう感じるか」「何を大切にしているか」という価値観を提供します。

③ Decision Talk(デシジョントーク:意向を確認し、決定を支える) 「あなたにとって何が一番大切ですか」「どんな生活を送りたいですか」という問いかけを通じて、本人の価値観に合った意思決定を支えます。医療者が「これが正解です」と押しつけるのではなく、本人が「自分で選んだ」と感じられる形で決定することがゴールです。

この3ステップで重要なのは、どれか一つが欠けても成立しないという点です。選択肢を知らされなければ選べませんし、各選択肢の内容を理解しなければ選べませんし、本人の価値観が反映されなければ「共有」にはなりません。


在宅ケア・訪問看護でSDMが特に重要な3つの理由

SDMはあらゆる医療場面に関係しますが、特に在宅ケア・訪問看護との相性が優れています。その理由を3つ挙げます。

理由① 在宅での意思決定は「点」ではなく「線」で続く

病院の診察室での意思決定は、限られた時間(多くは5〜30分)の中で行われます。患者・家族は緊張した状態で、初めて聞く医学的情報を短時間で判断しなければなりません。これでは、本人の価値観が十分に反映されにくいのが現実です。

一方、在宅療養では、治療方針・ケア内容・生活のあり方にまつわる意思決定が、毎週・毎月継続的に積み重なります。OURの訪問看護師は週に1〜数回、利用者の自宅を訪問します。「先週こう言っていた」「最近、表情が前向きになっている」「食事への意欲が落ちてきた」という小さな変化を、継続的な関係の中で把握できます。

この継続性こそが、訪問看護がSDMにおいて病院にはない強みを持つ最大の理由です。一度聞いた意向が変わることもあります。体調の良し悪し・季節・家族との関係の変化によって、「やっぱり病院より家がいい」「少し辛くなってきたので今は療養に集中したい」と気持ちが揺れることは自然です。訪問看護師はその変化を敏感に受け取ります。

理由② 「自宅」は本人が最も本音を話せる場所

病院の診察室や病棟では、白衣を着た医師・看護師の前で緊張してしまい、「先生に任せます」「何でも大丈夫です」と答えてしまう方が少なくありません。自分の意見を言うことが「わがまま」に感じられる方も多いです。

自宅は違います。慣れ親しんだ空間で、自分のペースで話せます。OURの看護師がバイタル測定をしながら「最近、気になっていることはありますか」と何気なく聞くと、「本当はもう点滴はしたくないんだけど」「先生には言いにくくて」という本音が出てくることがあります。

自宅で、継続的な信頼関係がある訪問看護師に話す——この組み合わせが、本人の意思を引き出す最も自然な環境です。OURはこの環境を活かして、本人の価値観・希望を継続的に把握し、主治医・ケアマネジャーへの橋渡し役を担っています。

理由③ 多職種チームの「中心」になれる

在宅ケアには、本人・家族・主治医・ケアマネジャー・ヘルパー・薬剤師など多くの関係者が関わります。それぞれが別々に本人と話し、互いの情報が共有されていないと、「医師にはこう言った」「ヘルパーにはこう話した」「家族にはまた別のことを言っている」という状況が生まれます。

訪問看護師は、これらの関係者全員と接触できる数少ない職種です。本人の意向を一元的に把握し、多職種に共有し、ケアの方向性を整える役割を担えます。SDMをチームとして機能させるための「ハブ(中心)」として、訪問看護師はなくてはならない存在です。


訪問看護師がSDMに関わる具体的な場面4つ

OURの訪問看護師が実際にSDMを実践している場面を紹介します。

場面① 「入院するか・在宅で続けるか」を一緒に考える

肺炎が悪化した・転倒で骨折した・がんが進行した。こうした場面で、「入院するか・在宅で療養するか」という判断が急に求められます。

主治医は医学的な見解を伝えます。「入院すれば集中的な治療ができる」「在宅でも対応できるが、家族の負担が増える」。しかしそれだけでは、本人にとって何がベストかはわかりません。OURの看護師は、「本人が入院について何と言っているか」「家族の状況はどうか」「在宅での医療的サポートとして何ができるか」を具体的に整理し、意思決定の材料を提供します。

「入院したくない」という本人の気持ちと「在宅では不安」という家族の気持ちが食い違うこともあります。そのとき、看護師は双方の言葉を受け止め、「では在宅で対応するとしたら、どんなサポートが必要か」「入院した場合、どんな点が心配か」を整理して、対話の場をつくります。

場面② 「治療をどこまで続けるか」を段階ごとに確認する

がん治療・透析・人工呼吸器管理など、長期的な医療処置を受けている方は、「この治療をいつまで続けるか」という問いに、定期的に向き合います。

OURの訪問看護師は、「今の体の状態はどうですか」「この治療を続けてみてどう感じていますか」という対話を、毎回の訪問の中に自然に組み込みます。意向は変わることがあります。半年前は「できる限り治療を続けたい」と言っていた方が、「最近はもう疲れた。痛みを取るケアに切り替えたい」と気持ちが変わることがあります。その変化を見逃さないことが重要です。

体調が悪いときの発言は、一時的な感情である場合もあります。「今日はとても辛そうだから、この言葉は主治医に伝えよう」「体調が回復してから改めて確認しよう」という判断も、継続的な関係があるからこそできます。

場面③ 在宅看取りの意思決定を家族と整理する

「最期は自宅で」という本人の希望が明確な場合、その実現に向けて家族の理解・準備・気持ちの整理が必要です。

「在宅看取りは本当にできるのか」「急変したらどうするのか」「死亡診断書はどうなるのか」——家族の不安はさまざまです。OURの看護師は、これらの疑問に正直に答え、「どんな状態になるか」「そのときどう対応するか」を事前に伝えます。漠然とした不安を「具体的に対処できる準備」に変えることで、家族が自信を持って見守れるようになります。

「本人は自宅希望だが、家族が不安で賛成できない」という場合は、家族の不安の中身を具体的に聞き、一つひとつ解決策を提示します。「酸素が必要になったときは?」→「機器を手配できます」「亡くなる瞬間に一人だったら?」→「24時間電話で対応し、必要なら緊急訪問します」。このやり取りを重ねることで、家族の気持ちが変わっていくことがあります。

場面④ ACPの会話を日常の訪問に自然に組み込む

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)については次の章で詳しく述べますが、OURの訪問看護師は初回訪問から自然な形でACPの会話を始めます。

「もしこの先、体の具合が大きく変わったとしたら、どんなことを大切にしたいですか」「延命処置についてはどうお考えですか」という直接的な質問ではなく、「今、生活の中で一番楽しみにしていることは何ですか」「体調が悪い日、どんなことを考えますか」という自然な会話から入ります。答えは記録し、主治医・家族と共有します。


> OURへのご相談はこちら > 「入院か在宅か迷っている」「本人の意思をどう確認すればいいかわからない」「在宅看取りを希望しているが家族の準備ができていない」——そんな方はOURにご相談ください。


ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とSDMの違いと連携

SDMとよく並んで語られる概念に、ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング、通称「人生会議」)があります。混同されることが多いですが、目的とタイミングが異なります。

ACPとは何か

ACPとは、「もし将来、意思表明が難しくなったときのために、本人の価値観・医療への希望・代理意思決定者(自分の代わりに決める人)を事前に話し合い、文書化・共有しておくプロセス」です。

厚生労働省は2018年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、ACPの概念と実践を明示しました。同省は「人生会議」という愛称でその普及を推進しています。ACPは一度行えば終わりではなく、時間の経過とともに繰り返し見直すものとされています。

SDMとACPの根本的な違い

SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
タイミング具体的な医療判断が必要な今この瞬間元気なうちから・継続的に
目的今ここで最善の意思決定を行う将来に備えた意思の確認・共有・文書化
主体医療者+患者・家族(対等なパートナー)本人を中心に家族・医療者
結果具体的な治療・ケアの選択価値観の共有・代理意思決定者の指定

SDMは「今、手術するかしないか」「今、透析を継続するかどうか」という具体的な決定場面で機能します。ACPは「将来、もし自分が意思表明できなくなったとき、どうしてほしいか」を事前に共有しておく営みです。

両者の連携が在宅ケアを強くする

ACPでしっかり意思を確認しておくことで、SDMの場面での決定が格段にスムーズになります。「本人は以前、胃ろうは希望しないと言っていた」「延命より苦痛緩和を優先したいと話していた」という記録があれば、本人が意思表明できない状態になったときでも、その言葉を基に代理決定できます。

OURでは、定期訪問の中でACPの会話を継続的に行い、本人の意向の変化を記録します。この記録は主治医・ケアマネジャー・家族と共有し、SDMの場面で活用します。「SDMで決める」と「ACPで備える」の両方が揃ったとき、本人の意思が最も確実に守られます。


家族が「代わりに決める」代理意思決定とSDMの原則

認知症が進行した・重篤な状態で意思確認ができない・意識がない——そうした場面では、家族が「代理意思決定者」として判断を迫られます。これは日本の在宅ケア現場で非常によく起きる状況です。

代理意思決定の大原則:「自分ならどうするか」ではなく「本人ならどうするか」

代理意思決定で最も重要な原則は、「自分が家族の立場で、どうしてあげたいか」ではなく、「本人だったら、どう選ぶか」を基準にすることです。これを医療倫理では「置換判断(Substituted Judgment)」と言います。

本人が以前に「胃ろうはしたくない」「自宅で最期を迎えたい」「痛みだけ取ってくれればそれでいい」と話していたなら、その言葉が代理決定の根拠になります。ACPで意向が文書化されていれば、さらに確実です。OURの訪問看護師は、日常の訪問の中で本人が発する言葉・意向を記録し、将来の代理意思決定に活かせるよう準備します。

本人の発言記録がない場合は、「本人が大切にしていたこと」「どんな生き方をしてきた人か」「以前に似た状況でどう判断したか」という情報から、最も本人に近い選択を推測します。

家族が抱える罪悪感への対応

「自分が決めたことで、本人を苦しめたのではないか」「あの選択で正しかったのか」——代理意思決定を行った家族が、後から深い罪悪感に苦しむことは珍しくありません。

OURの看護師は、こうした家族に「あなたが悪い判断をしたのではありません。あなたは本人の意思を代弁するという、とても難しい役割を担いました」と伝えます。そして「本人がもし同じ状況で選ぶとしたら、どうしていたと思いますか」という問いかけを通じて、家族自身が「自分の判断は本人の価値観に基づいていた」と確認できるよう支えます。

家族の罪悪感を軽くすることも、SDM支援の重要な一部です。

家族間で意見が割れたとき

「延命処置について、姉は賛成、兄は反対」という状況も珍しくありません。このとき、医療者は多数決ではなく「本人の意思に最も近い選択はどちらか」を基準に整理します。

OURの看護師は、対立する家族員それぞれの意見を「本人の立場から聞き直す」ファシリテーター(進行役)の役割を担います。「お兄さんが延命を拒否したいのは、本人がそう言っていたからですか、それともお兄さん自身がそう考えるからですか」という問いが、対話の方向を整理します。必要に応じて、主治医・ケアマネジャー・社会福祉士が参加するケースカンファレンスを設定します。


OURが実践するSDM支援|「わたしらしさを、ともにつくる」が意味すること

OUR訪問看護ステーションの理念は「わたしらしさを、ともにつくる」です。この言葉は、SDMの本質と深く重なります。

「ともにつくる」が意味するもの

「ともにつくる」は、医療者が正解を提供して患者が受け取るという関係ではありません。それぞれが持つもの——医療者は専門知識・経験、本人・家族は価値観・生活・望み——を持ち寄り、一緒に最善を探す姿勢を表しています。OURのスタッフは入社時からこの理念を共有し、日常のケアに実践しています。

精神科経験・OT代表の意思決定支援力

OURには、精神科病院での長年の臨床経験を持つ看護師が在籍しており、全員が厚生労働省の精神保健研修を修了しています。

精神科の現場では、「病識の欠如(自分が病気だと思っていない)」「コミュニケーション困難」「認知機能の変化」など、意思確認が難しい状況に日常的に向き合います。「本人が何を望んでいるか」を、言葉だけでなく表情・行動・文脈から読み取るスキルは、SDMにおける「本人の価値観の把握」と直接重なります。

代表の中田富久は認定作業療法士(OT)の資格を持ちます。作業療法は「その人にとって意味のある活動・生活は何か」を評価し、その回復・維持・適応を支援する専門職です。「この人にとって何が大切か」を問い続けるOTの視点は、SDMの根幹と一致しています。

宮崎市の現場から:「先生に任せます」という声と向き合う

宮崎市を含む地方では、医師への信頼・遠慮から「先生に任せます」という言葉が多く聞かれます。これは決して悪いことではありませんが、本人の価値観が医療に反映されないまま治療が進んでしまうリスクがあります。

OURでは「自分の意思を伝えることはわがままではない」「むしろそれが、より良いケアにつながる」というメッセージを、訪問の中で自然に伝え続けています。「何でも大丈夫です」と言う方の表情や言葉の変化を丁寧に観察し、「実はこんな気持ちもありますか?」と問いかける。その積み重ねが、本人の声を医療に届けます。


よくある質問

SDMとインフォームド・コンセント(IC)は何が違いますか?

インフォームド・コンセント(IC)は「医療者が情報を提供し、患者が理解して同意する」プロセスです。患者は情報を受け取る立場です。SDMはこれを大きく進化させた概念で、患者・家族も「自分の価値観・意見・希望を提供する当事者」として参加します。ICが「同意(コンセント)」を目的とするのに対し、SDMは「共同決定(シェアード・デシジョン)」を目指します。医療者と患者の関係が「教える者と教わる者」から「対等なパートナー」に変わる点が根本的な違いです。ICはSDMの一部として位置づけられますが、SDMはICより広い概念です。

認知症があっても本人の意思は尊重できますか?

はい、できます。認知症があっても、特に軽度〜中等度の段階では意思能力が保たれていることが多く、わかりやすい言葉・繰り返しの確認・本人が安心できる環境づくりによって意思を確認できます。「今、どこにいたい?」「この処置は痛いですか?」という簡単な質問から始めることが有効です。重度になった場合でも、表情・行動・過去の発言・ACPの記録を手がかりに「本人が望むこと」を推測することが代理意思決定の出発点です。OURのスタッフは認知症の方とのコミュニケーション支援に豊富な経験を持っています。

「もう治療はいい」と本人が言ったとき、どうすればいいですか?

まず、その言葉の背景を丁寧に確認することが重要です。「痛みや苦しさが続いて一時的にそう感じている」のか、「十分に生きて、今は静かに過ごしたいと思っている」のかによって、対応が大きく変わります。OURの看護師は、本人の言葉を否定したり急いで説得しようとしたりせず、まず「そう感じているんですね」と受け止めます。その後、身体症状の確認・心理的な背景の把握・家族との共有・主治医への報告を行い、意思決定プロセスを丁寧に進めます。「治療をやめる」という選択は患者の権利として尊重されますが、十分な対話と専門家のサポートが必要です。

ACPはいつ始めればいいですか?元気なうちからでも必要ですか?

早すぎることはありません。「元気なうちに」始めることが理想です。特に、①大きな病気の診断を受けたとき、②退院が決まったとき、③介護保険の認定を受けたとき、④訪問看護を開始するとき、は自然なタイミングです。「まだ先のこと」と後回しにすると、いざというときに意思確認ができないまま家族が代理決定を迫られます。OURでは初回訪問時から、自然な形でACPの会話を始めています。「もし体の具合が大きく変わったとき、何を大切にしたいですか」という問いかけから、ゆっくり話せます。

訪問看護師はSDMにどこまで関わっていいですか?

訪問看護師は医師ではないため、治療方針の最終決定を行うことはできません。しかし、SDMにおける「情報の整理・本人の価値観の把握と記録・対話の場のコーディネート・多職種への意向共有・意思決定後の継続的な確認」は、訪問看護師の重要な役割です。診断・処方・治療の決定は主治医が行いますが、その意思決定プロセスに本人・家族の声を届ける橋渡し役として、訪問看護師は不可欠な存在です。「医師に言いにくいことがある」「家族に伝えたいことがある」という本人の言葉を代弁することも、看護師の倫理的責任です。

SDMはケアマネジャーにも関係しますか?

深く関係します。ケアマネジャーがケアプランを作成する際に「この方の生活の目標は何か」「どんなサービスの組み合わせが本人の希望に合うか」を利用者・家族と話し合うプロセスは、SDMそのものです。OURはケアマネジャーと連携し、訪問看護の場で把握した本人の意向・価値観をケアプランに反映できるよう情報共有します。サービス担当者会議やケースカンファレンスは、チームでSDMを実践する重要な場です。ケアマネジャーが「訪問看護師と連携してSDMを進めたい」と思ったとき、OURは積極的に役割を担います。

意識がなくなったとき、事前に意思を伝える文書はありますか?

リビング・ウィル(Living Will:生前遺書)や事前指示書(Advance Directive)と呼ばれる文書があります。「延命処置を希望しない」「人工呼吸器はつけないでほしい」などの医療上の希望を、意思表明できるうちに書面にしておくものです。日本では法的拘束力は限定的ですが、医療チームが本人の意思を尊重する際の重要な参考資料になります。ACP(人生会議)の取り組みとして、こうした文書の作成を支援する活動も広まっています。OURでは、「書きたいが何を書けばいいかわからない」という方への相談にも対応します。


まとめ:SDMは「決めてもらう医療」から「ともに決める医療」への転換

  • SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)とは、医療者と患者・家族が情報・価値観を共有し、ともに最善の意思決定を行うプロセスです
  • 在宅・訪問看護では、「継続的な関係」「自宅という本音を話せる場」「多職種のハブ」という3つの強みがSDMを支えます
  • ACP(人生会議)と組み合わせることで、「今の決定」と「将来への備え」の両方が揃い、本人の意思が最も確実に守られます
  • 代理意思決定の基準は「自分ならどうするか」ではなく「本人ならどうするか」です。家族の罪悪感を支えることも支援の一部です
  • OURの理念「わたしらしさを、ともにつくる」はSDMの精神そのものです。継続的な訪問の中で、本人の声を医療につなげます

今日できる一歩:まず「この人(または自分)が大切にしていること」を一つ書き出してみてください。それがSDMの出発点です。そして「どこに相談すればいいかわからない」と感じたら、OURに電話してください。答えが出ていなくても、話すだけでいいです。


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参考文献一覧

  • 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(平成30年3月改訂)」厚生労働省
  • Elwyn G, et al. “Shared decision making: A model for clinical practice.” Journal of General Internal Medicine, 2012;27(10):1361-1367.
  • 「看護職の倫理綱領」公益社団法人日本看護協会(2021年版)https://www.nurse.or.jp/nursing/rinri/
  • Mindsガイドラインライブラリ 日本医療機能評価機構 https://minds.jcqhc.or.jp/
  • 「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」厚生労働省(令和元年6月)

この記事を監修した人

OUR
TEAM

OUR訪問看護ステーション

看護・リハビリチーム

看護師7名・理学療法士1名・作業療法士3名 / 宮崎市

宮崎市を中心に24時間・365日の訪問看護を提供。在宅透析・人工呼吸器・CV管理などの高度医療処置から生活期リハビリまで対応。「あなたらしさをともにつくる」を理念に、認定作業療法士・中田富久が代表を務め、医師・ケアマネジャーと連携し利用者一人ひとりの在宅生活を支援している。帝人ファーマ「みんなの訪問看護アワード2026」大賞受賞。