
「今の訓練が、何を目指しているのか分からない」リハビリを受けているご本人やご家族から、こうした声を聞くことがあります。目標が共有されていないと、リハビリは「やらされるもの」になってしまいます。この記事では、訪問看護のリハビリで目標(ゴール)がどのように決まっていくのか、そのプロセスを解説します。
結論を先に言うと、良い目標設定とは、専門職が一方的に決めるものではなく、ご本人の生活の希望を出発点に、実現可能な形へと専門職が一緒に組み立てていく作業です。
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目標設定の出発点は、「したい・する必要がある・することが期待されている生活行為」を聞き取ることです
日本作業療法士協会が普及を進める生活行為向上マネジメント(MTDLP)という手法では、リハビリの目標を「したい生活行為」「する必要がある生活行為」「することが期待されている生活行為」の3つの軸から本人・家族と一緒に整理することを基本にしています。「孫の結婚式に自分の足で歩いて出たい」「トイレだけは自分で行けるようになりたい」といった、その人にとって意味のある具体的な生活場面から目標を考えるのが特徴です。
OURでは初回の訪問時に、生活歴や大切にしてきたこと、これから過ごしたい時間についてじっくりお話を伺う時間を設けています。「趣味の畑仕事をまた少しでも続けたい」など、医療的な視点だけでは出てこない希望が目標につながることも少なくありません。
この考え方のポイントは、「歩けるようになる」のような漠然とした身体機能の目標ではなく、「何のために歩けるようになりたいのか」という生活の文脈まで含めて目標を立てる点にあります。
この視点は、ケアマネジャーが作成する居宅サービス計画(ケアプラン)の目標とも重なる部分が多く、リハビリの目標を明確にしておくことは、他の専門職との連携をスムーズにすることにもつながります。
目標は短期目標と長期目標の2段階で設定し、達成までの見通しを本人・家族と共有します
短期目標は1〜3か月程度で目指す状態、長期目標は半年〜1年程度で目指す生活の姿として設定するのが一般的です。たとえば「長期目標:自宅のトイレまで一人で歩いて行けるようになる」に対して、「短期目標:手すりを使って室内を10メートル歩けるようになる」のように、長期目標に至るまでの階段を短期目標で区切ります。
脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023、日本脳卒中学会)でも、機能障害や日常生活動作の障害の評価と予後予測に基づいてリハビリテーションプログラムを計画することが推奨されており、目標は「なんとなく」ではなく評価に基づいて設定されます。
目安として、脳卒中後のリハビリでは発症から数週間〜数か月の回復の早い時期に大きな目標を見直すことが多く、整形外科的な術後リハビリでは手術からの経過日数に応じて段階的に目標を引き上げていくなど、疾患ごとに目標の立て方の型があります。
目標は一度決めたら終わりではなく、体調や生活の変化に応じて定期的に見直されるものです
体調の変化、回復のペース、生活環境の変化などによって、当初立てた目標が現実的でなくなることもあれば、逆に予想より早く達成できることもあります。訪問看護のリハビリでは、数か月ごとの再評価のタイミングで目標を見直し、必要であれば主治医やケアマネジャーにも共有したうえで目標を更新します。
OURでは、再評価の際に「達成できたこと」を必ず言葉にして伝えるようにしています。小さな達成を実感してもらうことが、次の目標に向かう意欲につながるためです。
目標がなかなか定まらないときは、今の生活の「困りごと」からさかのぼって考える方法があります
「特にやりたいことが思いつかない」という方も少なくありません。そうした場合は、「今、生活の中で困っていること・不便に感じていること」から逆算して目標を考えます。たとえば「トイレに行くのが不安」という困りごとから、「日中は一人でトイレに行けるようになる」という目標が具体化されていく、といった流れです。
「特にない」という答えの背景に、痛みや不安、あきらめの気持ちが隠れていることもあります。時間をかけて生活の様子を伺ううちに、本人も気づいていなかった希望が見えてくることも少なくありません。
ご家族が目標設定に参加する意味は、生活全体を最もよく知っているのがご家族だからですです
専門職が把握できるのは訪問時の限られた時間の様子だけです。普段の生活でどこに困っているか、どんな場面でご本人が意欲的になるかは、ご家族の方がよく知っていることが多くあります。目標設定の場にご家族が参加することで、より生活に即した、続けやすい目標になります。
一方で、ご家族の希望とご本人の希望が食い違うこともあります。その場合は、どちらか一方に決めるのではなく、双方の思いを丁寧に聞き取りながら、無理のない着地点を一緒に探すことを心がけています。
たとえば「本人はまだ一人で外出したいが、家族は転倒が心配で反対している」という場合、いきなり結論を出すのではなく、まず室内での歩行を安定させる、外出時は一部区間だけ付き添うなど、段階を分けた目標にすることで、双方が納得しやすい着地点が見つかることがあります。
よくある質問
目標が高すぎる・低すぎると感じたときはどうすればいいですか?
遠慮せず担当のPT・OTに伝えてください。目標は一度決めたら変えられないものではなく、体調や生活状況に応じて見直すことが前提になっています。
本人が「もう歳だから」と目標を持つことに消極的です。どう関わればいいですか?
無理に大きな目標を立てる必要はありません。「今の状態を維持する」「痛みを増やさない」といった維持・予防的な目標も、立派な目標のひとつです。小さくてもご本人が前向きになれる目標から始めることを大切にしています。
認知症があると目標設定は難しいのでしょうか?
言葉での希望確認が難しい場合でも、表情や反応、普段の生活の様子から「その方らしい生活行為」を家族と一緒に推測しながら目標を立てることができます。
目標を達成したら、リハビリは終わりになりますか?
必ずしもそうではありません。達成した目標を維持するための関わりに切り替えたり、次の目標を新たに設定したりと、状態に応じて継続の要否を主治医・ケアマネジャーと相談しながら判断します。
まとめ
今日できる一歩:今のリハビリの目標が何か分からない、という方は、次回の訪問時に担当のPT・OTへ「今、何を目指して訓練していますか」と聞いてみてください。目標を言葉にして共有することが、リハビリの効果を実感する第一歩になります。
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参考文献一覧
- 生活行為向上マネジメント(MTDLP)とは(一般社団法人 日本作業療法士協会)
- 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕(日本脳卒中学会、2023年)
- 介護保険制度について(厚生労働省)
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