
「退院してから、なんだか別人みたいになった」「同じことを何度も聞いてくる」「料理の段取りができなくなった」「怒りっぽくなった」——脳梗塞や脳出血の後、体の麻痺とは別にこうした変化を感じている家族は少なくありません。それは「性格が変わった」のでも「やる気がなくなった」のでもなく、脳へのダメージが引き起こす「高次脳機能障害」かもしれません。
高次脳機能障害は、外見からわかりにくいため「見えない障害」と呼ばれます。家族が「なぜこんなことができないのか」と戸惑い、本人も「自分がおかしい」と気づけないまま、関係が疲弊してしまうケースがあります。
この記事では、高次脳機能障害の種類・家族が日常で困ること・在宅でのOTの関わり方・家族の対応のコツについて、宮崎市のOUR(アワー)訪問看護ステーションが詳しく解説します。「何かおかしい」と感じたとき、ぜひ参考にしてください。
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高次脳機能障害とはどんな状態か
脳卒中によって「考える・覚える・行動する」が障害される
脳梗塞や脳出血は、脳のさまざまな部位にダメージを与えます。手足の麻痺は、脳の「運動」を担う部分が傷ついた結果です。一方、記憶・注意・思考・感情・行動の制御といった「高度な脳の働き」が傷ついたとき、高次脳機能障害が起きます。
高次脳機能障害は、脳卒中だけでなく、交通事故による頭部外傷・脳炎・低酸素脳症などでも起こります。脳卒中後の方では、麻痺と高次脳機能障害の両方が重なるケースも多く見られます。
医学的な診断は医師が行いますが、日常生活で「何かおかしい」と感じた場合は、担当の主治医や作業療法士に相談することが大切です。
主な4つの症状——それぞれ「見えにくい」理由
高次脳機能障害にはいくつかの種類があります。本人が「自分に何かが起きている」と気づきにくいことが多く、家族だけが困惑してしまう状況が生まれやすいのが大きな特徴です。
記憶障害
新しいことを覚えられなくなる症状です。「さっき食事したことを忘れる」「同じ話を何度も繰り返す」「今日の日付や曜日がわからない」といった形で現れます。発症前の昔の記憶(長期記憶)は比較的保たれることが多いため、「昔のことはよく覚えているのに、さっきのことは覚えられない」という状態になります。
「また同じことを聞いてる」と家族がイライラするのは自然なことですが、本人は「聞いたこと」自体を覚えていないため、悪意や怠けではありません。
注意障害
集中力が続かない、ぼーっとしていることが増える、テレビを見ながら会話ができないなど、「注意を向ける・保つ・切り替える」機能が低下します。複数のことを同時にこなすのが難しくなり、料理中に他のことに気を取られて火を消し忘れる、といった危険につながることもあります。
疲れやすさとも重なりやすく、「気力がなくなった」「やる気がない」と誤解されることがあります。
遂行機能障害
物事を計画し、順序立てて行動する力が低下します。料理の手順がわからなくなる・買い物リストなしでは何を買えばいいかわからない・仕事の段取りが組めない、といった形で現れます。個々の動作はできるのに、全体の「流れ」が組み立てられないのが特徴です。
「言われたことはできるのに、自分では何もしない」という状況は、遂行機能障害が背景にある場合があります。
半側空間無視
脳の右半球が傷ついたときに多く見られる症状で、左側の空間や情報を無意識に無視してしまいます。食事を左側だけ残す・左側から来た人に気づかない・文章の左半分を読み飛ばすといった形で現れます。視力の問題ではなく、脳が「左側」を認識しにくくなっている状態です。
これらの症状は、本人が意識して「注意しよう」としても防げないことが多いため、叱ったり「しっかりして」と言っても改善しません。
日常生活で家族が困ること——具体的な場面と対応のヒント
「同じことを何度も聞く」記憶障害への対応
同じ質問を繰り返されると、家族は疲れ果てます。「さっき言ったでしょう!」と言いたくなるのは当然です。しかし記憶障害のある方は、「聞いた」という記憶自体がないため、責めても状況は変わりません。
効果的な工夫として、目に入る場所に「今日は○月○日(曜日)」「次の受診日は○○日」などのメモボードを置く方法があります。本人が繰り返し確認できる環境を整えることで、「聞く」回数が減ることがあります。
また、「さっき言った」という返し方よりも、「○○ですよ」と短く答え直すほうが、お互いのストレスを減らします。記憶障害は努力で治るものではなく、環境と関わり方で補うものと考えると、家族の関わりが楽になります。
「段取りができない」遂行機能障害への対応
以前は一人でこなせていた家事・買い物・服薬管理が難しくなった場合、「なまけている」と感じてしまいがちです。しかし遂行機能障害では、「やること」はわかっていても「どの順番でやればいいか」が組み立てられなくなっています。
対策としては、手順を書いたチェックリストを用意することが有効です。「1. 薬を飲む → 2. 水を飲む → 3. ○にチェックする」のように、一つひとつの行動を具体的な手順に分解して視覚化します。慣れるまでは一緒に確認し、できたことを認めることが意欲の維持につながります。
「怒りっぽくなった」感情コントロールの変化
脳卒中後に感情の制御がしにくくなり、些細なことで怒る・泣く・笑いが止まらないといった変化が現れることがあります。「情動失禁」と呼ばれ、感情そのものではなく「感情のブレーキ」が弱まった状態です。
本人が「怒りたくて怒っているわけではない」ことを家族が理解するだけで、受け取り方がずいぶん変わります。感情が高ぶったときは、刺激を減らし、静かに待つことが有効です。
「自分は大丈夫」という病識の低下
高次脳機能障害でとくに対応が難しいのが、本人が自分の障害に気づけない「病識の低下(アノソグノジア)」です。「自分は何も変わっていない」「そんなことはない」と言い張るため、周囲が困惑します。
この場合、無理に「あなたには障害がある」と納得させようとすると関係が悪化しやすいです。専門家(作業療法士・医師・公認心理師)を交えて、少しずつ本人が気づけるよう働きかけることが重要です。
在宅でのOT(作業療法士)の関わり方
高次脳機能障害の評価——何がどの程度困っているかを整理する
訪問の作業療法士がまず行うのは、「何がどの程度困っているか」の評価です。記憶・注意・遂行機能などを評価するテスト(MMSE・前頭葉機能検査等)とともに、実際の生活場面を観察して「この動作のどこで詰まっているか」を見ます。
「病院では問題なく見えた」「リハビリ室では指示通りできた」のに、自宅では段取りが取れない——こうしたギャップを見つけるのも、生活の場での評価の役割です。
日常生活への具体的なアプローチ
OTは、「できないことをどうトレーニングするか」だけでなく、「できないことをどう補うか」を一緒に考えます。
記憶障害には、手帳・メモボード・スマートフォンのリマインダーなどの外部補助具の活用を提案します。本人が使いやすい方法を探りながら、習慣として定着するまでサポートします。
注意障害には、「一度に一つのことだけ行う」環境を整えます。テレビを消す・刺激を減らす・作業スペースをシンプルにするといった環境調整が有効です。
遂行機能障害には、手順書やチェックリストを一緒に作ります。「朝の薬の飲み方」「夕食の準備の流れ」など、ルーティン化できるものから取り組みます。
半側空間無視には、左側に注意が向くような手がかりを置く(目立つ色のテープや目印)、食器を半分に減らして左側に置くなど、環境を工夫します。
「できることを本人がする」バランスを保つ
高次脳機能障害があると、家族が何でも先回りしてやってしまいがちです。しかし、できることを本人がやり続けることが、機能の維持と本人の尊厳につながります。
OTは「この動作はどこまで本人でできるか」「どこから介助が必要か」を一緒に整理し、「やりすぎない介護」のラインを家族と確認します。「頼りすぎず、任せすぎず」のバランスが、長く在宅生活を続けるための鍵です。
家族の疲弊を防ぐために
高次脳機能障害の介護は、身体介護よりも精神的な消耗が大きい場合があります。「どう接すればいいかわからない」「頑張っても報われない」という気持ちになることもあります。
OTは本人だけでなく、介護する家族への情報提供と精神的サポートも役割のひとつです。「こういうときはどう対応すればいいか」「何に困っているか」を気軽に話せる相手として、定期的に関わります。
また、デイサービスや短期入所(ショートステイ)と組み合わせて家族の休息時間(レスパイト)を確保することも、担当のケアマネジャーと一緒に検討できます。
宮崎市でのサポート体制——OUR訪問看護ステーション
作業療法士が在籍・生活の場で継続的に関わる
OUR訪問看護ステーションには作業療法士(OT)が在籍しており、高次脳機能障害への在宅での関わりに対応しています。
病院での訓練を終えて自宅に戻ると、日常生活のさまざまな場面で困りごとが出てきます。訪問のOTは、その方の実際の生活空間を直接見ながら関わるため、「リハビリ室ではできていたのに家ではできない」というギャップにも対応できます。月単位・年単位で継続して関わることで、変化や改善をともに確認しながら進めます。
看護師・PTとの連携で体も心も支える
高次脳機能障害のある方は、抑うつ状態や睡眠障害を合併することも少なくありません。OTが認知・生活面を担いながら、看護師が体調管理・内服状況・精神状態を確認し、PTが身体機能を維持するという連携体制で関わります。
「最近、夜眠れていない様子がある」「薬を飲み忘れているかもしれない」といった気づきも、スタッフ間で共有して主治医に報告する仕組みがあります。
医療機関・ケアマネジャーとの連携
高次脳機能障害の診断・評価・障害者手帳の申請などは、主治医や専門医が担います。OURは宮崎市内の医療機関と連携実績があり、「専門的な評価が必要かもしれない」と感じた場合には、主治医への情報提供や受診の調整もサポートします。
また、支援拠点機関(各都道府県に設置)への相談窓口についても情報提供できます。「誰に相談すればいいかわからない」という状況でも、まずOURにお声がけください。
よくある質問
脳卒中後の高次脳機能障害は、記憶・注意・遂行機能・半側空間無視など、見えにくい形で日常生活に影響します。「性格が変わった」「やる気がない」ではなく、脳のダメージによる症状であることを理解することが、適切な関わりの第一歩です。在宅での作業療法士(OT)は、評価・日常生活への具体的なアプローチ・家族への指導を通じて、本人と家族の双方を支えます。宮崎市で高次脳機能障害についての相談先をお探しの方、脳卒中後の在宅リハビリを検討中の方は、OUR訪問看護ステーションにお気軽にご相談ください。
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この記事を監修した人
株式会社OUR 代表取締役
中田 富久
認定作業療法士
昼は工場、夜は専門学校という4年間を経て作業療法士に。総合病院のICU・SCUから回復期、地域包括ケア病棟まで10年以上、脳卒中・難病・整形疾患の患者さんに関わり続けた。学会発表・座長を複数経験し、宮崎県内でも数名しかいない認定作業療法士として地域ケア会議やフレイル予防の場でも活動中。「病院を出ても、その人らしく生きてほしい」——その思いが、2022年のOUR設立につながった。「あなたらしさをともにつくる」を理念に、妻(看護師)とともに宮崎市で24時間365日の在宅ケアを届けている。帝人ファーマ「みんなの訪問看護アワード2026」大賞受賞。