
令和8年6月から、「訪問看護遠隔診療補助料」という新しい制度が始まります。名前だけ聞くと難しく感じますが、内容はとてもシンプルです。この記事では、まずひと言でわかる説明からはじめ、順番に詳しく解説していきます。
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まず3行でわかる「訪問看護遠隔診療補助料」
難しい名前ですが、中身はこれだけです。
医師がオンライン診療を行うときに、看護師が自宅でそばに付き添いサポートする。その訪問を評価する制度。
たとえばこんな場面を想像してください。
在宅療養中のAさんが、ある夜、いつもと体調が違うと感じました。病院に行くほどではないかもしれないけれど、一人では心配。そこで主治医がスマートフォン越しにAさんを診察します。しかしAさんの自宅には医師がいないため、血圧を測ったり、注射をしたりすることができません。
そこで訪問看護師がAさんの自宅を訪問し、医師の画面の前でバイタルを測り、必要な処置を行います。医師はオンラインで看護師と連携しながら、Aさんの状態を把握して指示を出します。
これが「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」と呼ばれる診療形態です。令和8年6月の診療報酬改定で、この「看護師が患者宅を訪問して医師のオンライン診察を支える」という行為が、令和8年6月から正式に評価される制度になります。それが訪問看護遠隔診療補助料です。
なぜこの制度が必要だったのか
オンライン診療は、通院が難しい在宅療養者にとって大きな味方です。しかしオンラインだけでは、医師が直接患者を触れないため、できることに限界がありました。
- 体温・血圧・酸素濃度などを正確に把握できない
- 注射や点滴、処置ができない
- 患者の様子をそばで観察する人がいない
「オンライン診療+現場の看護師」という組み合わせは、こうした限界を補うことができます。実際にこの形の診療はすでに行われていましたが、看護師が診療補助のために訪問すること自体を正式に評価する制度がありませんでした。
今回の改定でその評価が制度化されたことで、医療機関と訪問看護ステーションが連携してこの形の診療を取り組みやすくなりました。
「C005-1-3」と「07」――2つの算定区分をわかりやすく整理

今回の改定で新設された訪問看護遠隔診療補助料には、2つの算定区分があります。名前は同じですが、誰が費用を請求するかが違います。
| 区分 | C005-1-3(医科) | 07(訪問看護療養費) |
|---|---|---|
| 算定する主体 | 医療機関(病院・クリニック) | 訪問看護ステーション |
| 訪問する看護師 | 医療機関の看護師、または連携する訪問看護STの看護師 | 訪問看護ステーションの看護師 |
| 算定回数 | 月1回まで | 月1回まで |
| 訪問看護指示書 | その訪問のための指示書は不要 | 有効期間内の指示書があることが前提 |
簡単に言うと、こういうことです。
C005-1-3(265点):「医療機関が請求する」パターン
主治医のいる医療機関が費用を請求します。訪問する看護師は、医療機関のスタッフでも、連携する訪問看護ステーションのスタッフでも構いません。連携する訪問看護ステーションの看護師が訪問した場合は、医療機関と訪問看護ステーションの間で費用を分配します。
対象は、在宅で療養中または緊急に診療を要する通院困難な患者で、訪問看護計画に基づく定期的な訪問以外の場面が条件です。
07(2,650円):「訪問看護ステーションが請求する」パターン
訪問看護ステーションが直接費用を請求します。ただし算定できるのは、有効な訪問看護指示書のある利用者に限られます。指示書の有効期間が切れている場合は、この区分では算定できず、医療機関側でC005-1-3として請求することになります。
訪問看護を利用している在宅療養者にとって身近なのは、主にこちらの「07」のパターンです。
2つは同じ場面で重複して算定できない
C005-1-3と07は、同一の利用者・同一の訪問についてどちらか一方のみ算定できます。「どちらが算定するか」は、訪問した看護師が医療機関所属か訪問看護ステーション所属かによって決まります。
どんなときに使える制度なのか

この補助料が使えるのは、「定期的な訪問看護の予定とは別の場面」に限られます。毎週決まった日の訪問と同時に医師がオンライン診療を行う場合は、通常の訪問看護として算定します。
訪問看護遠隔診療補助料が想定されている場面はこちらです。
- 定期訪問の予定がない日に体調が変化し、主治医がオンライン診療を行うとともに、看護師にも訪問を求める場合
- 医師の診察補助を目的として、看護師が専ら診療補助のために訪問する場合
- 患者や家族から緊急の相談があり、主治医が看護師の同席のもとでオンライン診療を行う必要があると判断した場合
一方で、定期的・計画的なオンライン診療に対しては算定できません。本当に必要な場面に絞った制度です。また、月1回までという上限があります。
算定するための主な条件(詳細)
ここからはやや専門的な内容です。訪問看護ステーションが訪問看護遠隔診療補助料を算定するために必要な主な条件を整理します。
対象者の条件
- 有効な訪問看護指示書の交付を受けている利用者であること
- 在宅で療養中、または緊急に診療を要する通院困難な患者であること
- 施設入所者は対象外:医師または看護師の配置が義務付けられている施設(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設など)に入所している患者には算定できません
実施の条件
- 主治医が、オンライン診療の前に看護師の同席が必要と判断し、その必要性を診療録に記載していること
- 利用者(または家族等)の同意を得ていること
- 定期的な訪問看護計画に基づく訪問とは別の場面であること
- 連携先の医療機関が情報通信機器を用いた診療に十分な体制を整備していること
算定上の制限
- 月1回まで
- 同一日に訪問看護基本療養費・管理療養費等は算定できない(この補助料単独での算定)
- 1人の利用者に対し、1つの訪問看護ステーションのみが算定できる
- 訪問看護ステーションが訪問する場合、その訪問のための訪問看護指示書の交付は不要(ただし有効期間内の指示書があることが前提)
診療補助で検査・処置・注射が必要な場合
D to P with N の場面で、看護師が医師の指示のもとで検査・処置・注射を行う場合、それぞれに対応する新しい算定区分も令和8年度改定で設けられました。
- 看護師等遠隔診療検査実施料:看護師が検査を実施した場合に、通常の検査料に代えて算定
- 看護師等遠隔診療処置実施料:看護師が処置を実施した場合に、通常の処置料に代えて算定
- 看護師等遠隔診療注射実施料:看護師が注射を実施した場合に、通常の注射料に代えて算定
これらはいずれも医療機関側が算定するものです。訪問看護ステーションは算定できません。費用の分配は医療機関と訪問看護ステーションの合議によって行います。事前に連携先の医療機関と取り決めをしておくことが大切です。
訪問看護ステーションが準備しておくこと
この制度を活用するために、訪問看護ステーション側で整えておくべき点を整理します。
①連携医療機関との事前の取り決め
訪問看護遠隔診療補助料は、訪問看護ステーション単独では算定できません。連携先の医療機関がオンライン診療の施設基準を満たしていることが前提です。日頃から顔の見える関係を築き、緊急時の連絡フローや費用精算の方法をあらかじめ決めておきましょう。
②記録の整備
訪問を実施した日時・診療補助の具体的な内容・対応状況・利用者の同意の記録を訪問看護記録書に残すことが必要です。主治医側も指示内容を診療録に記録することが求められています。記録漏れがないようチェック体制を整えましょう。
③訪問看護指示書の有効期間の管理
算定できるのは有効な訪問看護指示書のある利用者に限られます。緊急の場面であっても指示書の有効期間が切れていると算定できないため、日頃から指示書の有効期間を適切に管理することが重要です。
在宅療養をしている方にとって何が変わるか
制度の話が続きましたが、最終的に大切なのは、在宅療養をしている方にとって何が変わるかです。
この制度によって期待されることは3つあります。
- 急な体調変化にも医師と看護師が連携して対応できる:「オンラインで医師が診て、現場で看護師がケアする」体制が制度として整い、在宅での緊急対応力が高まります
- 通院が難しい方でも質の高い診察が受けられる:看護師がそばで状態を確認しながら医師に伝えることで、オンラインだけでは難しかった診察の精度が上がります
- 医療機関と訪問看護ステーションの連携が深まる:この制度を通じて、主治医と担当の訪問看護師がより密に連携する機会が増えます。それ自体が在宅療養の安心感につながります
OUR訪問看護ステーションの取り組み
OUR訪問看護ステーションは、宮崎市を中心に在宅療養を支える訪問看護ステーションとして、地域の医療機関との連携を大切にしています。今回の令和8年度診療報酬改定を受けて、D to P with N に対応できる体制の整備にも取り組んでいます。
「自分の場合はこの制度の対象になるのか」「具体的にどのような形で利用できるのか」など、ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
なお、本記事は厚生労働省が公表した令和8年度診療報酬改定の資料(令和8年3月10日版)をもとに作成しています。詳細な算定要件・施設基準については、正式に発出された告示・通知等の最新情報をご確認ください。
よくある質問
訪問看護遠隔診療補助料とは、「医師がオンライン診療を行う際に、看護師が患者宅に訪問して補助をする」という行為を正式に評価する、令和8年6月新設の制度です。定期訪問とは別の場面で、月1回を上限に算定できます。在宅療養中の緊急対応力の向上と、医師・看護師の連携強化が期待される重要な変化です。詳しくは担当の訪問看護ステーションまたはケアマネジャーにご相談ください。
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