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ともにつくるケアノート— あなたらしさを支える訪問看護のかたち —

認知症の親の財産・介護を誰が管理する?成年後見制度の使い方をわかりやすく解説

「親が認知症になって、銀行で定期預金を解約しようとしたら断られた」「施設入所の契約書にサインできる状態ではない」「悪質な訪問販売にお金を払ってしまっていた」。こういった相談は、訪問看護をしている中でも珍しくありません。

判断能力が低下した方の財産や生活を守るために用意されているのが成年後見制度です。制度の存在は知っていても、「どんなとき使うのか」「誰が後見人になるのか」「費用はどのくらいかかるのか」がわからないまま、手続きが遅れてしまうケースがよくあります。

このコラムでは、宮崎OUR訪問看護ステーションが関わる在宅療養の現場から、認知症の家族を持つ方・遠距離介護をしている方に向けて、成年後見制度の仕組み・種類・申し立て手順・費用・よくある落とし穴を整理します。

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成年後見制度とは。認知症・障がいで判断能力が低下した方の権利を守る法的な支援制度

成年後見制度とは、認知症・知的障がい・精神障がいなどにより判断能力が十分でない方について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に保護・支援する制度です(民法・任意後見契約に関する法律等に基づく)。

2022年末時点の成年後見関係事件(後見・保佐・補助・任意後見の合計)の申し立て件数は年間約4万件に上り、そのうち認知症を原因とする申し立てが約7割を占めています(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」2022年)。

成年後見制度は大きく2種類ある

成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれます。それぞれの特徴を先に整理します。

種類対象始まり方特徴
法定後見制度すでに判断能力が低下している方家庭裁判所への申し立て補助・保佐・後見の3段階。本人の同意不要(後見・保佐)
任意後見制度判断能力がまだある方(将来に備える)公正証書で本人が契約自分で後見人を選べる。判断能力が低下したときに効力が生じる

現在すでに認知症が進んでいる場合は法定後見、まだ判断能力があるうちに将来の備えをするなら任意後見です。


法定後見制度の3段階:補助・保佐・後見の違い

法定後見制度には、判断能力の程度に応じた3種類があります。

補助(ほじょ):判断能力が不十分だが、ある程度は自分で決められる方

特定の法律行為(例:高額な不動産の売買、施設入所の契約)について、補助人が同意・代理・取り消しをサポートします。家庭裁判所が補助人に与える権限の範囲は、申し立て時に指定します。本人の同意が必要です。

保佐(ほさ):判断能力が著しく不十分な方

重要な財産行為(不動産の売買・借金・遺産分割など民法13条1項に列挙された行為)について、保佐人の同意が必要になります。本人が同意なしに行った行為は後から取り消せます。

後見(こうけん):判断能力を欠く常況にある方(重度の認知症など)

成年後見人が財産管理・身上監護(介護・医療に関する契約)のすべてについて代理権を持ちます。本人が行った行為(日常生活に関するものを除く)は原則として取り消せます。申し立てに本人の同意は不要です。


「今すぐ成年後見が必要」なのはどんな場面か

次のような場面に直面したとき、成年後見制度の利用を検討するタイミングです。

銀行・金融機関の窓口で手続きができなくなった

銀行は顧客の判断能力に疑いがある場合、本人が窓口に来ても預金の解約・引き出しを断ることがあります。「施設の入所費用を捻出したい」「介護費用に充てる資金が動かせない」という相談は現場でよく聞きます。成年後見人が選任されれば、後見人が代理で手続きできるようになります。

施設入所・医療機関への入院契約ができない

有料老人ホームや介護施設の入所契約、病院への入院同意書には、本人または法定代理人のサインが必要です。判断能力がない状態では本人のサインは有効とみなされない場合があり、家族であっても代理権がなければ契約できないことがあります。

訪問販売・悪質商法の被害を受けた

判断能力が低下すると、必要のないものを高額で購入させられる被害に遭いやすくなります。成年後見人が選任されれば、後見人が不当な契約を取り消せる場合があります(クーリングオフ期間が過ぎていても対応できるケースがある)。

遺産分割協議に参加できない

相続が発生したとき、判断能力のない方は遺産分割協議に参加できません。遺産を受け取る権利があっても手続きが進められず、放置すると相続に関する問題が生じます。このような場合、後見人が代理で協議に参加します。


任意後見制度:判断能力があるうちに自分で決めておく

任意後見制度とは、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ自ら選んだ代理人(任意後見人)に、生活・療養看護・財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書によって締結しておく制度です(任意後見契約に関する法律)。

任意後見のメリット

  • 自分が信頼する人(家族・友人・専門家)を後見人に選べる
  • 代理してほしい事務の内容をある程度自分で決めておける
  • 判断能力があるうちに「自分の意思」を法的に反映できる

任意後見が効力を持つタイミング

任意後見契約を結んでいても、自動的に効力が生じるわけではありません。本人の判断能力が低下した後、任意後見受任者(契約で決めた人)が家庭裁判所に申し立て、裁判所が「任意後見監督人」を選任して初めて任意後見人として活動を開始できます。


法定後見の申し立て手順と費用

申し立て先

家庭裁判所(本人の住所地を管轄する家庭裁判所)に申し立てます。宮崎市の場合は宮崎家庭裁判所です。

申し立てができる人は、本人・配偶者・四親等以内の親族(子・孫・兄弟姉妹・おい・めいなど)・市区町村長などです。親族がいない場合や親族が申し立てできない事情がある場合は、市区町村長(宮崎市長)が申し立てを行うことができます。

必要書類(主なもの)

  • 申立書・申立事情説明書
  • 本人の戸籍謄本・住民票
  • 医師の診断書(家庭裁判所所定の書式)
  • 収入印紙(申立手数料:800円)+登記手数料(2,600円)

※詳細は最寄りの家庭裁判所または弁護士・司法書士に確認してください。

費用の目安

費用金額目安
申立手数料(収入印紙)800円
登記手数料(収入印紙)2,600円
医師の鑑定費用(必要な場合)5万〜10万円程度
後見人への報酬(月額)管理財産額により異なる。目安として月2万〜6万円程度(家庭裁判所が決定)
弁護士・司法書士への申立書作成費用5万〜20万円程度(依頼する場合)

申し立てから審判まで

申し立てから後見開始の審判(後見人が選任されること)まで、家庭裁判所の統計では約2か月以内に終了するものが全体の約70%、4か月以内に約90%以上が終了しています(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」)。急を要する場合は申し立て時にその旨を申告してください。


知っておくべき注意点と落とし穴

一度後見が始まったら、原則として取り消せない

法定後見制度は、本人の状態が回復して判断能力が戻らない限り、後見を終了させることができません(本人が亡くなるまで続くことが多い)。軽度の認知症で「少し心配だから」と後見を申し立てた結果、必要以上に財産管理を外部に委ねることになる場合もあります。段階的な制度(補助・保佐)を検討し、状態に見合った類型を選ぶことが重要です。

後見人は必ずしも家族がなれるわけではない

家庭裁判所は、申し立ての際に候補者として挙げた家族を選任しない場合があります。特に管理財産が多い場合や親族間で意見が対立している場合は、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職後見人が選任されることがあります(2022年の統計では、専門職後見人が全体の約70%を占めています)。

成年後見人は「身の回りの介護」をするわけではない

成年後見人の仕事は、財産管理と法律行為(契約・取り消し等)に限られます。食事の世話や実際の介護は、成年後見人の職務ではありません。在宅介護・施設への入所手続きの「契約行為」は後見人が行い、「実際のケア」は介護保険サービス・訪問看護が担います。この役割分担を理解しておくことが大切です。

本人の財産から費用が出る

後見人への報酬は、本人の財産から支払います。財産が少ない場合でも費用は発生するため、長期的な費用を見通しておく必要があります。市区町村によっては、費用負担が困難な方への助成制度がある場合もあります(宮崎市の場合は市の担当窓口に確認ください)。


「日常生活自立支援事業」との違い

成年後見制度に似た制度として、日常生活自立支援事業(宮崎県社会福祉協議会が実施)があります。両者の違いを整理します。

項目日常生活自立支援事業成年後見制度(法定後見)
対象判断能力に不安があるが、契約内容をある程度理解できる方判断能力が不十分または欠く方
始め方市区町村社会福祉協議会への相談・本人との契約家庭裁判所への申し立て・審判
法的拘束力なし(契約ベースの支援)あり(法律に基づく保護)
できること福祉サービスの利用援助・日常的な金銭管理・書類等の預かり財産管理全般・施設入所や医療の契約・遺産分割協議など
費用相談無料・サービスは有料(1時間あたり1,200円程度、令和6年3月現在)後見人への報酬(財産規模に応じて月2万円〜)

軽度の認知症で「銀行のことが少し心配」「福祉サービスの手続きを手伝ってほしい」という段階なら日常生活自立支援事業から始めることができます。状態が進んで法的な代理権が必要になった段階で成年後見制度に移行するという考え方が現実的です。

相談先: 宮崎市の場合は各地区の宮崎市社会福祉協議会、または宮崎県福祉総合センター(宮崎県社会福祉協議会)へ。


訪問看護と成年後見制度:在宅生活を支える関係

成年後見制度と訪問看護は、それぞれ異なる役割で同じ利用者の生活を支えます。

訪問看護師が担う役割

  • 認知症の状態変化の定期的な観察・家族への報告
  • 服薬管理・医療処置・生活リズムの支援
  • 「そろそろ後見申し立てを検討した方がいい」という判断の助言

訪問看護師は日常的に本人の状態を把握しているため、認知機能の低下が進んできたタイミングを家族に伝える立場にあります。「銀行手続きができなくなった」「悪質業者が来るようになった」という家族からの相談をきっかけに、地域包括支援センターや社会福祉協議会への連携につなぐ役割も担っています。

遠距離介護の方へ:後見人と訪問看護の連携

遠方に住む家族が後見人になった場合、日常的に親の状態を把握することが難しくなります。訪問看護師が週1〜2回訪問し、状態変化をメール・電話で報告することで、後見人である遠方の家族が適切なタイミングで判断・行動できる体制をつくることができます。OURでは県外在住の後見人・家族への定期報告を実際に行っています。

詳しくは「離れて暮らす親が心配。遠距離介護の始め方と見守り体制の作り方」もご覧ください。


よくある質問

成年後見制度の手続きはどこに相談すればいいですか?

まずは地域包括支援センター(宮崎市内に複数設置)または宮崎市社会福祉協議会に相談してください。どちらも無料で相談に対応しており、制度の説明・手続きの案内を行っています。法的な手続きを代行してもらう場合は弁護士・司法書士への依頼が必要ですが、まずは公的窓口への相談が入り口として適切です。

成年後見人は家族でなければなりませんか?

家族以外でも選任できます。弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選任されることも多く、2022年の統計では専門職後見人が全体の約70%を占めています。申し立て時に候補者を記載しますが、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所が決定します。

認知症の診断がないと申し立てできませんか?

認知症の診断がなくても申し立ては可能です。ただし申し立てには医師の診断書が必要で、家庭裁判所が必要と判断した場合は鑑定(医師による詳細な能力評価)を行います。「診断は受けていないが、状態から見て後見が必要そう」という場合は、まずかかりつけ医または地域包括支援センターに相談してください。

任意後見と法定後見を両方使うことはできますか?

できます。任意後見契約を結んでおいた後、本人の判断能力が低下して任意後見が始まり、さらに事情によっては法定後見に移行するケースもあります。また、日常生活自立支援事業と成年後見制度を併用するケースもあります。状況に応じた組み合わせを専門家と相談してください。

親が「後見人なんていらない」と拒否しています

法定後見制度のうち「後見」「保佐」については本人の同意なく申し立てができます(「補助」は本人の同意が必要)。ただし、後見制度の目的は本人の意思を尊重しながら保護することです。まず本人の不安(「財産を取られるのでは」「自分でできないと思われたくない」など)を丁寧に聞き取り、必要であれば訪問看護師・ケアマネジャー・地域包括支援センターが間に入って関係調整を行うことも有効です。

訪問看護と成年後見制度は一緒に使えますか?

はい、両方を同時に使えます。成年後見人が施設・医療機関との契約を行い、訪問看護が実際の在宅ケアを担当するというのが、認知症が進んだ方の在宅療養における一般的な体制です。OURでは後見人(遠方の家族・専門職)への状態報告も行っています。


まとめ

  • 成年後見制度は、認知症・障がいにより判断能力が低下した方の財産と権利を守る法的支援制度
  • 法定後見(補助・保佐・後見)はすでに判断能力が低下している方向け。任意後見は判断能力があるうちに将来に備えて契約する制度
  • 銀行手続き・施設入所契約・遺産分割など「法律行為」が必要な場面で後見制度が力を発揮する
  • 一度始めると原則終了できない・後見人が家族に決まるとは限らない、という点は事前に把握しておく
  • 軽度の段階では「日常生活自立支援事業」から始めるという選択肢もある
  • 今日できる一歩:親の認知機能低下が気になり始めたら、まず地域包括支援センターか宮崎市社会福祉協議会に相談してください。訪問看護師への相談も入り口になります。OURへのご相談はお電話(0985-77-8266)またはお問い合わせフォームから。

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参考文献一覧

  • 成年後見はやわかり(厚生労働省)— https://guardianship.mhlw.go.jp/
  • 後見開始の審判(裁判所)— https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_01/index.html
  • 成年後見関係事件の概況(最高裁判所)— https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html
  • 宮崎県社会福祉協議会「あんしんサポート(2024年改訂版)」— 日常生活自立支援事業・成年後見制度の解説パンフレット

この記事を監修した人

OUR
TEAM

OUR訪問看護ステーション

看護・リハビリチーム

看護師7名・理学療法士1名・作業療法士3名 / 宮崎市

宮崎市を中心に24時間・365日の訪問看護を提供。在宅透析・人工呼吸器・CV管理などの高度医療処置から生活期リハビリまで対応。「あなたらしさをともにつくる」を理念に、認定作業療法士・中田富久が代表を務め、医師・ケアマネジャーと連携し利用者一人ひとりの在宅生活を支援している。帝人ファーマ「みんなの訪問看護アワード2026」大賞受賞。