
「薬が多すぎて管理できない」「飲んだかどうか忘れてしまう」「何種類もの薬をもらっているが本当に全部必要なのか」。在宅で療養する高齢者とその家族から、こういった相談をよく受けます。
複数の薬を同時に服用することで起きるリスクは「ポリファーマシー」と呼ばれ、転倒・入院・認知機能低下の原因になることがあります。このコラムでは、OUR訪問看護ステーションの看護師が、高齢者の薬管理の工夫・ポリファーマシーのリスク・在宅での対策を解説します。
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ポリファーマシーとは。薬が多いほど起きやすいリスクを知る
ポリファーマシーとは、多剤服用により有害事象が起きやすい状態のことです。単に薬の数が多いだけを指すのではなく、「必要以上の薬が処方されていることで起きる問題」と定義されます。日本老年医学会や厚生労働省の報告では、おおむね6種類以上の服薬でリスクが有意に上昇するとされています。
高齢者に多い理由は、複数の専門科(内科・整形外科・循環器科・神経科など)を受診することで、それぞれの医師が独立して薬を処方するためです。病院間で処方情報が共有されないまま薬が増え続けるケースがあります。
ポリファーマシーが引き起こす4つのリスク
転倒・骨折リスクの増加
睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)・抗ヒスタミン薬・一部の降圧薬は、ふらつき・めまい・起立性低血圧を引き起こし転倒リスクを高めます。日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、これらは高齢者に特に注意が必要な薬(PIM:潜在的不適切処方)として位置づけられています。
認知機能への影響
抗コリン薬(一部の過活動膀胱治療薬・胃腸薬・抗アレルギー薬など)は、認知機能を低下させる可能性があることが知られています。「急に物忘れがひどくなった」という変化の背景に薬が関係していることがあります。
食欲不振・体重減少
多剤服用により口の渇き・吐き気・食欲低下が重なり、低栄養・体力低下につながります。
服薬管理自体が困難になる
薬の種類が多いほど飲み忘れ・飲み過ぎ・誤服薬が起きやすくなります。薬の錠数・回数・タイミングが複雑になると、認知機能が低下した方には管理が困難です。
高齢者の薬の飲み忘れが起きやすい原因と在宅でできる工夫
飲み忘れが起きやすい5つの原因
- 種類・回数が多い(朝2種・昼1種・夕3種・寝る前1種など)
- 認知機能の低下(飲んだかどうか記憶できない)
- 副作用が嫌で意図的に飲まない(眠気・口の渇きなど)
- 外出・受診のリズム乱れ(処方薬が途切れる)
- 薬の見た目が似ていて混乱する(錠剤の色・大きさが同じ)
在宅で実践できる服薬管理の工夫
| 課題 | 対策 |
|---|---|
| 飲んだか忘れる | お薬カレンダー(曜日・時間帯ごとに仕分けるポケット型)を壁に貼る |
| 種類が多くて混乱する | 一包化調剤を薬局に依頼する(1回分をまとめて1袋にパックしてもらう) |
| 飲み忘れが頻繁 | スマートフォン・介護用アラーム機器で服薬時刻を通知する |
| 外出中に飲めない | 日数調整・携帯用の薬ケースを活用する |
| 嚥下が難しくなった | 錠剤からOD錠(口腔内崩壊錠)・粉砕・液剤への変更を主治医・薬剤師に相談する |
一包化調剤は保険が適用されます。認知機能の低下がある方・一人暮らしの高齢者・服薬管理が難しい方は主治医か薬局に相談してください。
「この薬、本当に全部必要?」と思ったときにすべきこと
かかりつけ薬局・薬剤師への相談が最初の窓口
複数の病院から処方された薬を一つの薬局でまとめて調剤してもらうと、薬剤師が薬の重複・飲み合わせ(相互作用)・高齢者に不適切な薬を確認できます。これを「お薬手帳の一元管理」といいます。
お薬手帳はすべての医療機関・薬局での処方を記録するためのものです。「通院している医療機関が多くてバラバラになっている」という場合は、一つの薬局にまとめることを検討してください。
訪問薬剤師という選択肢
在宅療養中の方には、薬剤師が自宅を訪問して服薬指導・管理を行う在宅患者訪問薬剤管理指導(医療保険)が利用できます。薬の整理・飲み合わせのチェック・副作用の観察を薬剤師が継続的に行います。
要介護・要支援認定があれば介護保険の居宅療養管理指導(薬剤師)も利用可能です。
主治医への「お薬の見直し」相談
「薬が多すぎて飲めていない」「副作用が気になって飲めていない薬がある」という事実を、主治医に正直に伝えることが重要です。伝えにくい場合は訪問看護師が橋渡し役を担います。OURでは服薬状況を定期的に確認し、医師への情報提供を行っています。
特に注意が必要な薬と家族へのお願い
高齢者に処方されることが多い薬の中で、在宅生活において特に注意が必要なものを紹介します(日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を参考)。
| 薬の種類 | 主なリスク | 注意すること |
|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系(睡眠薬・抗不安薬) | 転倒・ふらつき・認知機能低下 | 急な中断は離脱症状が出るので必ず医師と相談して減量 |
| 抗ヒスタミン薬(一部の風邪薬・酔い止め) | 眠気・ふらつき・口の渇き | 市販薬も含まれる。医師・薬剤師に確認 |
| 抗コリン薬(過活動膀胱・胃薬など) | 認知機能低下・便秘・口渇 | 認知症リスクが指摘されている |
| NSAIDs(痛み止め・解熱鎮痛薬) | 腎機能障害・消化管出血 | 腎機能が低下した高齢者では特に注意 |
| 降圧薬 | 起立性低血圧・転倒 | 急に立ち上がるときにふらつきやすい |
> これらの薬がすべて「悪い」わけではありません。処方された理由があります。勝手に中断せず、不安な場合は主治医・訪問看護師に相談してください。
訪問看護が薬管理でできること
訪問看護師は医師と薬剤師の橋渡し役として、薬管理に深く関わります。
- 服薬の実際の状況(飲めているか・副作用は出ていないか)の定期的な確認
- 飲み忘れが続いている薬の記録・医師への報告
- 一包化・お薬カレンダー・服薬支援ツールの導入サポート
- 持効性注射剤(LAI)や皮下注射の実施(指示がある場合)
- 嚥下困難による服薬方法の変更提案(粉砕可否の確認含む)
「薬が飲めていない」「副作用が出ているかもしれない」という状況は、在宅療養の危険サインです。状態が悪化してから対応するより、早めに訪問看護師に相談することで入院を防げるケースは少なくありません。
よくある質問
薬を自己判断で減らしてもいいですか?
自己判断での中断・減量は危険です。特に降圧薬・血糖降下薬・抗凝固薬・抗精神病薬・ステロイドは急に止めると重篤な状態になることがあります。「飲み続けるのが難しい」と感じたら、必ず主治医か訪問看護師に相談してください。
市販薬・サプリメントも処方薬との飲み合わせに注意が必要ですか?
はい。市販の風邪薬・鎮痛剤・胃薬・サプリメント(特にグレープフルーツ・St. John’s Wort・ビタミンK含有食品など)は処方薬と相互作用を起こす可能性があります。新たに市販薬・サプリメントを使い始めるときは、薬剤師か主治医に確認する習慣をつけてください。
薬を飲んだかどうか確認する方法はありますか?
お薬カレンダー(壁掛け式・ポケット型)に1回分ずつ薬をセットする方法が最もシンプルです。朝・昼・夕・就寝前のポケットが空いていれば飲んだことが一目でわかります。認知機能低下がある方には、訪問看護師が訪問のたびに確認・補充する体制をつくることも有効です。
薬剤師が自宅に来てくれる制度はありますか?
あります。「在宅患者訪問薬剤管理指導」(医療保険)または「居宅療養管理指導(薬剤師)」(介護保険)を利用することで、薬剤師が自宅を訪問し服薬管理をサポートします。かかりつけ薬局か主治医に相談してください。
まとめ
- ポリファーマシーとは多剤服用による有害事象が起きやすい状態。6種類以上でリスクが有意に上昇する
- 転倒・認知機能低下・食欲不振・服薬管理困難の4つのリスクが特に問題になる
- 一包化調剤・お薬カレンダー・かかりつけ薬局への一元管理が在宅での主な対策
- 「薬が多すぎる」と感じたらまず薬剤師か訪問看護師に相談する。自己中断は禁物
- 今日できる一歩:お薬手帳を1冊にまとめ、次回の受診時に「今飲んでいる薬の一覧を確認してほしい」と主治医に伝えてみてください。OURへの服薬管理サポートのご相談はお電話(0985-77-8266)またはお問い合わせフォームから。
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参考文献一覧
- 一般社団法人 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」— https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」令和元年(日本老年医学会・日本老年薬学会との協働)