
執筆者: OUR訪問看護ステーション 看護・リハビリチーム 監修者: 中田富久(認定作業療法士・OUR代表)
令和8年度の診療報酬改定で、訪問看護における服薬管理の位置づけが大きく変わりました。これまで「配慮事項」だった服薬状況・残薬の把握が、運営基準上の実施必須事項に格上げされ、記録への記載・保険薬局への情報提供も明文化されています。
「今まで通りでいいのかな」と感じている訪問看護師・管理者の方は少なくないはずです。この記事では、改定の正確な内容・訪問看護記録書への具体的な書き方・薬剤師や主治医との連携の流れ・利用者への説明方法まで、現場ですぐ使えるかたちで解説します。
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令和8年度改定の全体像:服薬管理が「配慮」から「義務」になった背景
令和8年度診療報酬改定において、訪問看護の服薬管理は「望ましい取り組み」から「運営基準上の実施必須事項」に格上げされました。これは一時的な通知強化ではなく、基準改正として位置づけられた制度変更です。
なぜ今なのか。背景には、在宅医療を受ける高齢者の増加と、それに伴う残薬問題の深刻化があります。日本薬剤師会の調査では、在宅療養中の患者の約6割に何らかの残薬があるとされており、残薬の放置は飲み忘れ・過剰服薬・薬の変質による有害事象のリスクにつながります。訪問看護師は毎回利用者の自宅を訪問する職種として、薬の状況を最も把握しやすい立場にあります。
政策の方向性は明確です。「医師が処方→薬剤師が調剤・管理→看護師がフォロー→主治医にフィードバック」という薬物療法の連携ループを訪問看護の場でも確立し、薬の無駄・有害事象・再入院を減らすことが狙いです。
OURでも以前から、訪問時に薬袋や一包化の状況を確認することは実践してきました。ただ記録への落とし込み方や薬剤師との連携方法は事業所によって差があり、今回の改定がそのばらつきを埋める役割を果たしています。
何が変わったか:6つの確定ポイントを整理する
令和8年度改定における服薬管理関連の変更点は、以下の6点に整理できます。
①服薬状況・残薬の把握が「実施必須事項」に(最重要)
これまで服薬状況の確認は「望ましい」「配慮する」という表現にとどまっていました。令和8年度改定では、服薬状況(残薬の状況を含む)の把握が運営基準上の実施必須事項として明確に義務化されました。「やっていなくても違反ではなかった」状態から「やっていないと基準違反」になったということです。
自己点検として確認してほしいのは、訪問ごとに薬の状況を見ているかどうかではなく、「見た上で何らかの記録に残しているか」です。確認だけして記録しない運用は、改定後は基準を満たさない可能性があります。
②訪問看護記録書への記載・保存が明記
把握した服薬状況・残薬状況を訪問看護記録書に記載し、保存することが明文化されました。「記録をどこに書けばよいか分からない」という声をよく聞きますが、原則は訪問看護記録書(経過記録)への記載です(詳細は次の章で解説します)。
③保険薬局への情報提供が「望ましい」として明文化
これまで服薬情報の連携先は主治医が中心でした。令和8年度改定では、「保険薬局への情報提供が望ましい」と明文化されました。「望ましい」は「必須」ではありませんが、薬局側の新加算(後述)と組み合わせることで、連携が評価・推進される仕組みになっています。
④訪問看護計画書の記載要領が改定(令和8年3月27日 保医発0327第10号)
訪問看護計画書の記載要領が改定され、令和8年3月27日付の通知(保医発0327第10号)として発出されました。計画書における服薬管理の記載方法に変更があるため、事業所の様式・記載ルールを確認・更新する必要があります。
⑤処方箋様式に「残薬確認指示欄」が追加
医師が発行する処方箋に、残薬確認の指示欄が新たに設けられました。これにより薬剤師が調剤時に残薬確認を行う根拠が処方箋上に記載されることになります。訪問看護師が把握した残薬情報と処方箋情報が連動しやすくなります。
⑥薬局側の新加算が創設
保険薬局において「調剤時残薬調整加算」「かかりつけ薬剤師訪問加算」が新設されました(詳細は後の章で解説)。訪問看護師の情報提供が薬局の加算につながる連携構造が整備されています。
訪問看護記録書への具体的な記載方法
訪問看護記録書における服薬状況の記載は、「確認した事実+状況の評価+対応・連絡内容」の3要素を書くことが基本です。
何を書けばよいか:3要素の構成
1. 確認した事実 薬の種類・数・残量・保管状況など、目で見て確認できたことを客観的に記載します。
2. 状況の評価 服薬状況が適切かどうか、残薬がある場合はその量・原因の見立てを記載します。
3. 対応・連絡内容 その場で行った対応(確認・指導・整理など)、主治医や薬局への報告予定・実施の有無を記載します。
具体的な記載例
以下に、状況別の記載例を示します。実際の記録は利用者の状態・指示書の内容に合わせて調整してください。
【服薬状況に問題がない場合】
“` 処方薬(降圧剤・血糖降下剤・眠剤 各1種)の残薬を確認。 薬袋の錠数と手帳の記録が概ね一致しており、指示通りの服薬が できていると判断。本人より「毎朝食後に飲んでいる」と聴取。 残薬なし。次回訪問時も継続確認予定。 “`
【残薬が多い場合】
“` 薬袋内の残薬を確認したところ、降圧剤が約15錠余剰あり(処方日数 から計算すると4〜5日分の飲み忘れに相当)。本人に確認すると 「飲んだかどうかわからなくなることがある」との発言あり。 認知機能の低下による服薬管理困難が疑われる。 担当ケアマネに連絡予定。主治医への報告を次回診療時に家族が 行えるよう、情報を家族と共有した。 ○○薬局(担当薬剤師:△△氏)への情報提供を検討中。 “`
【薬の変更・中止があった場合】
“` 前回訪問後に内科受診があり、血圧薬がA錠からB錠に変更されていた。 お薬手帳で変更を確認。旧薬(A錠)が7錠残っており、本人が新旧を 混同している可能性あり。新薬のみ服用するよう口頭指導。 旧薬を別袋に分けて保管するよう整理した。主治医への確認事項として 「旧薬の廃棄方法」をメモし、次回指示書更新時に確認予定。 “`
記録の保存期間と「完結の日」の解釈
訪問看護業務の手引きによると、訪問看護記録書・計画書・報告書・指示書はいずれも完結の日から2年間の保存が義務となっています。
「完結の日」とは、契約終了(解約・解除・他施設入所・死亡・自立等)により一連のサービスが終了した日を指します。利用中の記録は「完結」していないため、最終訪問日(または契約終了日)から起算して2年間の保存が必要です。
「1回ずつの記録を1年で捨てていた」という管理をしている事業所は、この解釈を再確認してください。利用者が入院中であっても契約が継続している場合は、完結の日は到来していません。
訪問看護計画書・報告書はどう変わるか
令和8年3月27日付の保医発0327第10号により、訪問看護計画書の記載要領が改定されています。この通知は各事業所で確認・取得が必要です(厚生労働省ウェブサイトから入手可能)。
計画書における服薬管理の記載
改定後は、服薬管理に課題のある利用者について、計画書の「看護・リハビリの内容」欄に服薬管理を明示することが求められます。これまで「服薬確認」と一言書いていた事業所も、残薬の有無・服薬の自己管理能力・必要な支援内容を具体的に記載するよう見直しが必要です。
計画書のひな形・記載例については、都道府県の訪問看護協議会・厚生労働省のQ&Aを参照してください。
報告書への記載
月次の訪問看護報告書においても、服薬状況の変化・残薬の状況・薬局や主治医への連絡内容を記載しておくことで、主治医や薬局との情報共有のエビデンスが残ります。特に利用者の服薬状況が月単位で変化している場合は、報告書への記載が情報連携の起点になります。
薬剤師・主治医への情報提供の流れ
今回の改定で最も現場に影響が大きいのが、「薬剤師への情報提供」の明文化です。従来は主治医への報告が中心でしたが、令和8年度からは薬局との連携ルートを意識した運用が求められます。
情報提供の優先順位と判断基準
| 状況 | 連絡先の優先順位 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 副作用が疑われる症状(発疹・嘔気・ふらつきなど) | 主治医を最優先 | 当日連絡 |
| 残薬が多く過剰服薬・服薬なしのリスクがある | 主治医+薬局へ並行報告 | 次回診療前に連絡 |
| 残薬が少量・服薬は概ね良好 | 薬局へ情報提供(任意) | 次回訪問後に記録共有 |
| 薬の変更・追加があった | 薬局へ情報提供 | 変更確認後早期に共有 |
| 服薬管理に問題なし | 記録に残すのみ | 特段の連絡は不要 |
薬剤師への情報提供:何を、どうやって伝えるか
薬剤師に伝えるべき情報は主に以下の4点です。
1. 残薬の量と種類 「〇〇錠が約〇錠余っています」「一包化の袋が〇袋未開封です」など、具体的な数値で伝えます。
2. 服薬できていない理由の見立て 「嚥下困難で錠剤が飲みづらい」「認知機能低下で飲み忘れ」「副作用が嫌で自己判断で減らしている」など、原因の見立てを共有することで薬剤師が適切に対応できます。
3. 生活状況・本人の訴え 「朝は調子が悪く薬を飲む気になれないと話している」「娘が週2回来て確認しているが、その間に飲み忘れがある」など、生活の文脈を伝えます。
4. 看護師としての対応内容 「今日は残薬を一包化の箱に整理した」「本人に服薬カレンダーの使い方を説明した」など、すでに行った対応を共有します。
情報提供の手段
訪問看護・薬局間の情報共有に決まった書式はありませんが、以下の手段が実践されています。
- お薬手帳への記載:看護師が気づいたことをお薬手帳に記入し、薬局での次回持参時に確認してもらう
- 電話・FAXでの連絡:緊急性がある場合・担当薬剤師が決まっている場合
- 地域の連携ツール:MCS(メディカルケアステーション)・カナミック等を利用している地域では情報共有が可能
- ケアマネ経由:ケアマネジャーを介してサービス担当者会議で共有する
OURが宮崎市内で連携している薬局では、電話での情報共有が最もスムーズです。担当薬剤師の名前と連絡先を訪問看護記録書に残しておくことで、次の訪問者も引き継ぎやすくなります。
薬局側の新加算:訪問看護師が知っておくと連携しやすくなること
今回の改定では、薬局側にも服薬管理・残薬対策に関する新加算が設けられています。この加算を訪問看護師が理解しておくと、「なぜ薬剤師が積極的に連携しようとしているのか」「何を求められているのか」がわかり、連携がスムーズになります。
調剤時残薬調整加算(薬局側の新加算)
残薬がある状態を薬剤師が確認した上で、医師の処方内容を調整(減量調剤)することを評価する加算です。処方箋の「残薬確認指示欄」に医師が指示を記載した場合に適用されます。
訪問看護師との関係: 訪問看護師が残薬の状況を薬局に伝えることで、薬剤師が「この患者さんには調剤量の調整が必要」と判断しやすくなります。訪問看護師の情報提供が、この加算の起点になります。
かかりつけ薬剤師訪問加算(薬局側の新加算)
かかりつけ薬剤師が患家を訪問し、服薬管理・薬の整理・利用者・家族への指導を行うことを評価する加算です。
訪問看護師との関係: これまで薬剤師の患家訪問は薬剤師居宅療養管理指導(介護保険)・在宅患者訪問薬剤管理指導(医療保険)が主体でしたが、今回の加算はより幅広い利用者への薬剤師訪問を後押しするものです。「薬の整理が追いつかない」「看護師だけでは服薬管理が難しい」ケースでは、かかりつけ薬剤師の訪問を積極的に提案してみてください。
残薬確認指示欄(処方箋の新様式)
処方箋に「残薬確認指示欄」が追加されたことで、主治医が「残薬を確認して調整してほしい」という意図を処方箋上に明示できるようになりました。訪問看護師が「残薬が多い」と主治医に報告することで、主治医が次回処方時に残薬確認の指示を処方箋に記載するケースが増えることが予想されます。
利用者・家族への説明のポイント
服薬管理の義務化・記録強化は、利用者・家族にとって「監視されているようで不快」に受け取られることがあります。説明の仕方を工夫することが大切です。
基本姿勢:「チェックしている」ではなく「一緒に守る」
「薬が正しく飲めているか確認します」という言い方より、「薬が体に合っているか、しっかり効いているかを一緒に見ていきます」という伝え方のほうが受け入れられやすいです。
よくある疑問への回答例
「なぜ薬の数を数えるんですか」
「薬が余っていると、飲めていない日があることが多いんです。体の状態と薬が合っているか確認するために、定期的に残薬を確認させてください。余っている場合は先生や薬局に伝えて、量を調整してもらえることもありますよ」
「薬のことを薬局に話すんですか」
「法律の改正で、看護師が気づいた薬の情報を薬局と共有することが推奨されるようになりました。薬局の薬剤師さんも先生と連携しているので、情報を共有することで余分な薬が減ったり、副作用の早期発見につながります。個人情報は適切に管理します」
「私の薬の情報が漏れるのでは」
「共有するのは担当の薬剤師さんと主治医の先生だけです。チームとして薬の安全を守るための情報共有ですので、ご安心ください」
認知症のある利用者への説明
認知症で薬の管理が難しい利用者の場合、本人への説明と並行して家族・介護者への説明・同意取得が重要です。特に服薬状況を薬局や主治医に報告する場合、家族が「そんな情報を共有されていたとは知らなかった」とならないよう、初回訪問時のオリエンテーションで連携の範囲を説明しておくことをおすすめします。
OURの職員周知:「義務化」を現場に落とし込むまで
令和8年度改定の内容が固まった後、OURでは管理者を中心にスタッフへの周知を段階的に行いました。「法律が変わった」という通達だけでは現場の動きは変わりません。私たちが意識したのは、「なぜ変わったか」「具体的に何をすればいいか」「記録にどう書くか」を現場レベルで理解できる形にすることでした。
周知の4ステップ
ステップ1:管理者が内容を精査する
厚生労働省の告示・通知・説明資料、宮崎県訪問看護協議会からの情報を管理者が収集・整理しました。法令文書の読み取りは専門知識を要するため、「現場が読んでわかる要約版」を作成する工程を省略しないことがポイントです。
ステップ2:スタッフミーティングで共有する
改定内容の概要・変更点・具体的な対応方法を全員に共有しました。一方向の説明にならないよう、「今の記録のどこが変わるか」「どんな状況で薬剤師に連絡するか」という実務上の疑問を話し合う時間を設けました。参加できなかったスタッフには個別フォローを行い、認識のばらつきを防いでいます。
ステップ3:記録の書き方を事業所内で統一する
「服薬状況」「残薬確認」の記録記載例をOUR内で統一しました。スタッフによって記録の粒度に差が出やすい項目のため、記載例を示すことで「書きすぎ・書かなさすぎ」のばらつきを減らしています。以下はOURが実際にスタッフへ提示した記載パターンの例です。
【服薬状況に問題がない場合】
“` 処方薬(降圧剤・血糖降下剤 各1種)の残薬を確認。 薬袋の錠数と記録が概ね一致しており、指示通りの服薬ができていると判断。 本人より「毎朝食後に飲んでいる」と聴取。残薬なし。次回も継続確認予定。 “`
【残薬が多く、服薬管理に課題がある場合】
“` 薬袋内の残薬を確認。降圧剤が約15錠余剰(処方日数から4〜5日分の飲み忘れに相当)。 本人に確認すると「飲んだかどうかわからなくなる」との発言あり。 認知機能の低下による服薬管理困難が疑われるため、担当ケアマネへ連絡予定。 ○○薬局(担当:△△氏)への情報提供を検討。 “`
【薬の変更・中止があった場合】
“` 前回訪問後に内科受診。血圧薬がA錠からB錠に変更されていた。 旧薬(A錠)が7錠残っており、新旧を混同している可能性あり。 新薬のみ服用するよう口頭指導。旧薬は別袋に分けて整理した。 次回指示書更新時に廃棄方法を主治医に確認予定。 “`
ポイントは「事実の確認→状況の評価→対応・連絡内容」の3段構成で書くことです。この順番を意識するだけで、情報の漏れとばらつきが大幅に減ります。
ステップ4:迷ったときにすぐ相談できる体制を維持する
「この利用者の残薬が多い。薬局に連絡すべきか」という判断は、ケースによって異なります。義務化されたとはいえ、全利用者に同一対応でいいわけではありません。訪問中に生じた迷いをその日のうちに管理者や同僚に相談できる風土が、現場の質を支えています。
周知のなかで感じたこと
率直に言えば、改定内容の理解には時間がかかりました。「記録書に書く」という運用変更は一見シンプルですが、「どの程度書けばよいか」「薬剤師への連絡タイミングをどう判断するか」は読み込むほど解釈が分かれる内容でした。
同じ訪問看護ステーションの管理者・スタッフが同様の疑問を持っていると感じたことも、この記事を作成した理由のひとつです。制度解釈に不安がある場合は、都道府県の訪問看護協議会や国保連への相談も有効です。OURとして得た解釈がほかの事業所の参考になれば幸いです。
こんな方はOURにご相談ください
OURでは以下のような方・事業所を支援しています。
- 令和8年度改定への対応方法について相談したい訪問看護師・管理者の方
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参考文献一覧
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(厚生労働省、2026年)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】(令和8年3月10日版)」(厚生労働省、2026年)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671099.pdf
- WIC NET「令和8年度診療報酬改定の概要【訪問看護ステーション向け】」(MC Plus Material、2026年)https://www.wic-net.com/material/document/23641/53
- WIC NET「残薬対策に関する改定資料」(MC Plus Material、2026年)https://www.wic-net.com/material/document/23641/51
- Care Team「残薬対策が訪問看護の『義務』に?2026年度(令和8年度)診療報酬改定から読み解く、これからの服薬支援と多職種連携」(Care Team、2026年)https://careteam.jp/column/column068
- 訪問看護業務の手引(統合版)(厚生労働省)