
はじめに
「脱水症状は夏だけのもの」と思っていませんか?実は、冬場も高齢者の脱水症状が多く発生しています。訪問看護の現場でも、冬になると脱水による体調不良で相談を受けるケースが増加します。
OUR訪問看護ステーションでは、宮崎市を中心とした在宅療養を支える中で、冬場の隠れた健康リスクである「冬季脱水」について、ご家族から質問をいただことがあります。今回は、医療専門職の視点から、冬場の脱水症状の予防と対処法について解説します。
なぜ冬場に脱水症状が起こるのか?
1. 喉の渇きを感じにくい
冬は気温が低いため、夏に比べて喉の渇きを自覚しにくくなります。特に高齢者は、加齢により喉の渇きを感じる感覚が鈍くなっているため、水分不足に気づかないまま過ごしてしまうことが多いのです。
実際に、高齢者は成人と比べて口渇感が低下することが知られており、脱水のリスクが高まります[1]。
2. 暖房による乾燥
エアコンやヒーターなどの暖房器具を使用すると、室内の湿度が大きく低下することがあります。乾燥した環境では、気づかないうちに皮膚や呼吸から水分が失われる「不感蒸泄(ふかんじょうせつ)」が増加します。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」では、快適な室内環境として湿度50〜60%を推奨しています[2]。冬場の乾燥した室内では、通常よりも多くの水分が失われることになります。
3. トイレを気にして水分摂取を控える
「寒いとトイレが近くなる」「夜中にトイレに起きたくない」という理由で、意識的に水分摂取を控える高齢者の方も少なくありません。特に移動が困難な方や夜間の転倒リスクがある方は、この傾向が強くなります。
4. 厚着による発汗
冬場は重ね着をすることが多く、室内で過ごしているうちに意外と汗をかいています。しかし、夏のような「汗をかいている」という実感がないため、水分補給を忘れがちになります。
冬の脱水症状のサインを見逃さない
在宅での看護経験から、以下のような症状が現れたら脱水症状を疑う必要があります。
初期症状
- 口の中や唇が乾燥している
- 尿の色が濃い黄色になる
- 尿の回数や量が減る(1日4回以下)
- 皮膚のハリがなくなる(手の甲の皮膚をつまんで離すと、戻りが遅い)
- 便秘がちになる
- 体重が急に減る(数日で1〜2kg以上)
進行した症状
- 頭痛やめまい
- 集中力の低下、ボーッとする
- 立ちくらみやふらつき
- 脱力感、倦怠感
- 食欲不振
- 微熱(37℃前後)
重度の症状(緊急対応が必要)
- 意識がもうろうとする
- 手足が冷たく、顔色が悪い
- 血圧の低下(収縮期血圧90mmHg以下)
- 脈が速い(100回/分以上)、または弱い
- 皮膚のツルゴール(弾力)の著しい低下
重度の症状が見られた場合は、すぐに医療機関に連絡してください。脱水が進行すると、腎機能障害や意識障害を引き起こす可能性があります。
冬場の効果的な水分補給方法
1. 1日の水分摂取目安
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、一般的な成人の場合、1日に必要な水分量は約2.5リットル(食事から約1リットル、飲料から約1.5リットル)とされています[3]。
高齢者の場合は、体重1kgあたり30〜35mlを目安にすることが推奨されています[4]。
具体的な目安(体重50kgの場合):
- 1日の総必要水分量: 1,500〜1,750ml
- 食事からの摂取: 約600〜800ml
- 飲料からの摂取: 約1,000〜1,200ml
1日の水分補給スケジュール例:
- 朝起きた時:コップ1杯(200ml)
- 朝食時:200ml
- 午前中(10時頃):200ml
- 昼食時:200ml
- 午後(15時頃):200ml
- 夕食時:200ml
- 就寝前:コップ半分〜1杯(100〜200ml)
2. 飲みやすい温度と飲み物の選び方
冬場は冷たい飲み物が苦手な方も多いため、以下のような工夫をしましょう。
おすすめの飲み物:
- 白湯(さゆ): 体を冷やさず、胃腸にも優しい。40〜60℃が飲みやすい温度
- 麦茶(常温〜温かいもの): カフェインフリーで安心。ミネラルも補給できる
- ハーブティー(ノンカフェイン): カモミール、ルイボスティーなど。リラックス効果も
- 経口補水液: 電解質(ナトリウム、カリウム)も補給できる
- みそ汁やスープ: 塩分と水分を同時に摂取。栄養も豊富
避けたほうが良い飲み物:
- カフェインを多く含むもの(コーヒー、緑茶など): 利尿作用があり、逆に脱水を促進する可能性
- アルコール: 強い利尿作用に加え、血管拡張により体温調節機能が低下
- 糖分が多い清涼飲料水: 血糖値の急上昇を招き、糖尿病のある方は特に注意が必要
厚生労働省の「高齢者のための熱中症対策」では、こまめな水分補給と、脱水時には経口補水液の利用が推奨されています[5]。
3. タイミングを決めて習慣化する
「喉が渇いたら飲む」のではなく、時間を決めて定期的に水分補給することが重要です。高齢者は口渇感が鈍いため、「渇きを感じる前に飲む」ことが脱水予防の鉄則です。
効果的な方法:
- 食事の前後に必ず飲む
- 薬を飲むタイミングで一緒にコップ1杯
- テレビ番組の合間に飲む(例:ニュースが始まったら)
- 訪問看護師やヘルパーが来た時に一緒に飲む
- タイマーやスマートフォンのアラーム機能を活用
在宅でできる脱水予防の工夫
1. 室内環境の調整
- 加湿器の使用: 室内湿度を50〜60%に保つ。タンクの水はこまめに交換し、清潔に保つ
- 濡れタオルを干す: 加湿器がない場合の代替策。洗面器に水を入れて置くのも効果的
- 洗濯物を室内干しにする: 自然な加湿効果が期待できる
- 換気を適度に行う: 2〜3時間に1回、5〜10分程度。新鮮な空気を取り入れる
2. 飲みやすい環境づくり
- 保温ポットを近くに置く: すぐに飲める状態にしておく。電気ポットなら温度管理も簡単
- お気に入りのコップを使う: 視覚的にも飲みたくなる工夫。軽くて持ちやすいものを選ぶ
- 飲んだ量を記録する: チェックシートで見える化。目標達成の達成感も
- ストローやコップの工夫: 飲みやすい形状のものを選ぶ。ストロー付きコップは便利
3. 食事からの水分摂取
食事から摂取する水分も重要です。以下のような食材を積極的に取り入れましょう。
- みずみずしい果物: みかん(水分約87%)、りんご(約84%)、梨(約88%)、いちご(約90%)
- 鍋料理: 野菜からの水分も豊富。寄せ鍋、水炊き、豆乳鍋など
- とろみのある料理: 嚥下しやすく、水分も摂取できる。あんかけ料理、シチューなど
- ゼリーやプリン: 食べやすく水分補給にもなる
- 汁物: みそ汁、スープ、お粥など
ご家族へのアドバイス
観察のポイント
訪問看護師として、ご家族に以下の観察ポイントをお伝えしています。
- 1日の水分摂取量をチェック: 飲んだ量を記録する習慣をつける。ペットボトルに目印をつけるのも有効
- 排尿の回数と色を確認: 1日4〜6回が目安。色が濃い場合は要注意
- 体重の変化に注目: 急激な体重減少(数日で1kg以上)は脱水のサイン
- 口の中の状態を見る: 乾燥していないか、舌に亀裂はないか、唾液の量は十分か
- 皮膚の状態: ツルゴール(弾力)の低下、乾燥、亀裂などがないか
- 活動性や意識レベル: いつもよりぼんやりしていないか、反応が鈍くないか
コミュニケーションの工夫
高齢者の方に「水分を摂って」と言っても、なかなか実行されないことがあります。そんな時は:
- 「一緒に温かいお茶を飲みましょう」と誘う
- 「お薬の後はお水をたっぷり飲んでくださいね」と声かけ
- 「今日は○○mlまで飲めましたね、素晴らしいです!」と褒める
- 「最近、お肌がカサカサしてませんか?」と気づきを促す
- 「トイレの心配は、ポータブルトイレを準備すれば大丈夫ですよ」と安心感を与える
関連記事: トイレの心配で水分を控えている方には、ポータブルトイレの活用や夜間の転倒予防対策についても、別の記事で詳しくご紹介しています。
OUR訪問看護ステーションのサポート
私たちOUR訪問看護ステーションでは、在宅療養中の方とご家族が安心して冬を過ごせるよう、以下のようなサポートを行っています。
- 定期的な訪問での脱水状態のチェック: バイタルサイン測定、皮膚・口腔内の観察、尿量・尿色の確認
- 個別の水分摂取計画の立案: 利用者様の生活リズムや嗜好に合わせたプラン作成
- ご家族への具体的な介護指導: 水分補給の工夫、記録方法、緊急時の対応など
- 緊急時の相談対応(24時間365日): 緊急電話で迅速に対応
- かかりつけ医との連携: 状態変化時の迅速な報告と指示受け
- 多職種連携: ケアマネジャー、ヘルパー、薬剤師などと情報共有
宮崎市、国富町、綾町、新富町を中心に、地域に根ざした訪問看護サービスを提供しています。
まとめ
冬場の脱水症状は、「隠れた健康リスク」として見過ごされがちですが、適切な知識と予防策があれば十分に防ぐことができます。在宅療養を安全に続けるためには、ご本人だけでなく、ご家族の観察とサポートが不可欠です。
この記事のポイント
✅ 冬も夏と同じように脱水症状のリスクがある: 喉の渇きを感じにくい、暖房による乾燥、トイレを気にして水分を控えるなどの理由で、冬場も脱水が起こりやすい
✅ 喉の渇きを感じる前に、定期的に水分補給する: 高齢者は口渇感が鈍いため、時間を決めて定期的に飲む習慣が大切
✅ 1日1,000〜1,200ml以上の水分を飲料から摂取: 体重や活動量に応じて調整。食事からの水分も合わせて考える
✅ 室内環境を整え、乾燥を防ぐ: 加湿器の使用、濡れタオルを干すなどで湿度50〜60%を保つ
✅ 脱水症状のサインを見逃さない: 尿の色・量、皮膚のハリ、意識レベルなどを日常的に観察
✅ ご家族の観察とサポートが重要: 飲んだ量の記録、声かけ、飲みやすい環境づくりなど、ご家族の役割は大きい
✅ 訪問看護の活用: 専門職による定期的なアセスメントと早期介入で、脱水を予防
OURからのメッセージ
「なんだか最近、元気がない」 「トイレが近くなるから、水分を控えている」 「冬場の水分補給、どうすればいいかわからない」
そんな不安や疑問があれば、どうか私たちに相談してください。
在宅療養を支えるのは、医療やケアの技術だけではありません。 日々の小さな変化に気づき、適切な対応をすること。 それが、利用者様の健康を守る第一歩です。
私たちOUR訪問看護ステーションは、利用者様とご家族、両方を全力でサポートします。
あなたらしさを、ともにつくる。 それが、OURの理念です。
お問い合わせ
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執筆日: 2025年12月
執筆: OUR訪問看護ステーション
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この記事を書いた人
OUR訪問看護ステーション
宮崎市を拠点に、「あなたらしさを、ともにつくる」を理念として、訪問看護サービスを提供しています。経験豊富な看護師・理学療法士・作業療法士が在籍し、24時間体制で、幅広い疾患・障害に対応。利用者様とそのご家族が、住み慣れたご自宅で安心して暮らせるよう、専門性の高いケアを提供しています。
精神科訪問看護、リハビリテーション、緩和ケア、小児訪問看護など、多様なニーズに対応し、地域の医療機関やケアマネジャーとの密な連携のもと、切れ目のないサポートを実現しています。
参考文献
本記事は、以下の公的機関の資料および学術文献に基づいて作成されています。
その他参考資料:
- 一般社団法人 日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」
- 東京都保健医療局「高齢者の1日の水分量」
免責事項
- 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医療行為を推奨または否定するものではありません。
- 脱水症状や水分補給に関する個別の判断・対応は、必ず医師、看護師、またはその他の医療専門職にご相談ください。
- 本記事の情報に基づいて行動された結果について、OUR訪問看護ステーションは一切の責任を負いかねます。
- 記事内容は2025年12月時点の情報であり、医療制度の変更や最新の研究成果により内容が変更される可能性があります。
- 持病のある方、服薬中の方は、水分摂取量について主治医に確認してください(心不全や腎臓病など、水分制限が必要な場合があります)。
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット
「脱水症」
🌐 健康長寿ネットで読む ↩︎ - 厚生労働省(2014)
「健康づくりのための睡眠指針2014」
厚生労働省健康局
📄 PDFで読む ↩︎ - 厚生労働省(2020)
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
🌐 公式サイトで読む ↩︎ - 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
「頻尿の原因は?」
🌐 公式サイトで読む ↩︎ - 厚生労働省
「高齢者のための熱中症対策」リーフレット
📄 PDFで読む ↩︎