
「また同じことを聞かれた」「さっき言ったのに」そんなため息をついたあと、自己嫌悪になる夜はありませんか。
認知症の親と向き合う日々は、愛情と疲労と、そして罪悪感が入り混じる時間です。怒ってしまったこと、うまく話せなかったこと、「もう限界かもしれない」と感じた瞬間……それはあなたが弱いのではなく、それだけ一生懸命に向き合っている証拠です。
この記事では、宮崎市で認知症の在宅ケアを支える訪問看護師が、「関わり方のコツ」より前に大切なことなぜ認知症の親はそういう言動をするのかを丁寧にお伝えします。理由がわかると、接し方が変わります。接し方が変わると、親との時間が少しだけ穏やかになります。
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「なぜ何度も同じことを言うの?」認知症の脳で起きていること
認知症になると、新しい出来事を記憶に残すことが難しくなります。さっき食事をしたことも、さっき話したことも、脳に「書き込む」ことができないのです。
だから「また同じことを聞く」のは、意地悪でも嫌がらせでもありません。本人にとってはその質問が「初めて」なのです。同じことを何度も尋ねるのは、不安だからというケースがほとんどです。「ご飯はまだ?」と何度も聞くのは、空腹というより「自分は大切にされているか」という不安の表れであることが多いのです。
「怒っても何も変わらない」は本当
「さっき言ったでしょう」と叱っても、認知症の方には意味が伝わりません。それどころか、内容は忘れても、叱られた恐怖や悲しみの感情は残ります(感情記憶は比較的保たれるためです)。
怒ったあとに親の表情が曇ったまま、という経験をお持ちの方もいるかもしれません。それは親がしっかり感じ取っているサインです。叱るより、一緒に穏やかな時間を過ごすことが、結果として安定につながります。
家族が知っておくと楽になる「認知症の3つの特徴」
| 特徴 | 具体的な場面 | 対応のヒント |
| 直前の記憶が残りにくい | 同じ質問の繰り返し | 同じ笑顔で答える。責めない |
| 感情の記憶は比較的保たれる | 叱られた悲しみが残る | 穏やかな声かけを意識する |
| 「今の自分」がわからない不安 | 「家に帰りたい」「財布を盗まれた」 | 否定せず気持ちに寄り添う |
「家に帰りたい」「財布を盗まれた」よくある言動への向き合い方
「家に帰りたい」と言い出したとき
自宅にいるのに「家に帰りたい」と言う。これは認知症でとてもよく見られる言動です。本人が言う「家」は、多くの場合、子どもの頃の家や、安心して過ごせた場所を指していることがあります。
この言葉が出たとき、「ここが家でしょう」と正面から否定しても、本人の不安は解消されません。むしろ「家が恋しいんだね。何が食べたい?」と話題を変えたり、「少し散歩でもしようか」と外に連れ出したりすることで、気持ちが落ち着くことがほとんどです。
OURの訪問看護師が現場でよく使う声かけは、「そうだね、ゆっくりしようね」という共感の一言から始めること。まず気持ちを受け止めることで、次の行動につながりやすくなります。
「財布を盗まれた」「通帳がない」と訴えたとき
これは「もの取られ妄想」と呼ばれ、認知症の方に多く見られる症状です。財布をしまった場所が思い出せず、「誰かに盗まれた」と解釈してしまうのです。
最もつらいのが、「自分が盗んだ犯人」にされてしまうことです。「そんなことしていない」と反論するほど関係が悪化します。「一緒に探しましょうか」と言って、引き出しを一緒に開ける.
それだけで「見つかった」「ありがとう」になることがほとんどです。
> OURからひとこと:「盗んでいない」と証明しようとするより、一緒に探す行動に移ることが解決への近道です。家族だからこそ感情的になりやすいですが、第三者である訪問看護師が間に入ることで、こうした場面が落ち着くことも多くあります。
認知症の進行別|家族が意識したい関わり方の変化
認知症は段階によって、必要なサポートが変わります。
初期(軽度):「本人の気持ち」を尊重することが最優先
初期の方は、自分が認知症であることを感じ取っています。「また失敗した」「情けない」という自己嫌悪を抱えていることも少なくありません。
この時期は、できていることを見つけて認めることがとても大切です。「お茶を入れてくれてありがとう」「そうだね、あなたが言う通り」小さな肯定の積み重ねが、本人の自尊心を保ちます。
また、大切なことを決めるときは、この時期に一緒に話しておくことが重要です。「もし動けなくなったらどこで過ごしたいか」「病院はどうするか」元気なうちに家族で共有しておくと、後々の判断が楽になります。
中期(中等度):介護者の体力・気力を守ることも大切
日常生活の多くに手助けが必要になる時期です。家族だけで抱え込もうとすると、介護する側が先に限界を迎えます。
この段階で訪問看護やデイサービスを取り入れることは、親のためでもあり、家族のためでもあります。「施設に預けることへの罪悪感」を持つ方も多いのですが、家族が元気でいることが、親の安定にとって何より大切です。
訪問看護師が関わることで、本人の変化を専門的な目で早めに察知し、主治医やケアマネと連携することができます。家族が「なんとなくおかしい」と感じたことを伝えやすい存在として、OURのスタッフは関わっています。
後期(重度):「一緒にいること」そのものが意味を持つ
言葉でのコミュニケーションが難しくなっても、手を握る・そばに座る・目を合わせる。その存在感は伝わります。OURの看護師が在宅看取りに関わる中で、「最期まで笑顔を見せてくれた」という声を家族から聞くことがあります。
この時期は、親のそばにいる時間そのものが意味を持ちます。「何もできない」と思わないでください。あなたがそこにいることが、最大のケアです。
介護する家族自身の心を守るために
「完璧な介護者」は存在しない
怒ってしまう日も、泣いてしまう日も、「もうやめたい」と思う日もある。それが当たり前の介護の現実です。
公益財団法人日本ケアラー連盟の調査では、在宅介護をしている方の約7割が「心身の疲労を感じている」と回答しています。つまり、疲れていない介護者のほうが少ない。あなたが感じている疲れは、正直な感覚です。
「今日できること」だけを考える
「この状態がいつまで続くのだろう」と先のことを考えすぎると、心が折れます。「今日1日、穏やかに過ごせたらいい」と範囲を狭めるだけで、少し楽になることがあります。
「今日もよく頑張った」。就寝前にそう自分に声をかけてみてください。誰かに言ってもらえないなら、自分で言っていい。介護は、それだけ価値のあることをしているのです。
相談先を持つことの大切さ
一人で抱え込まないために、相談できる場所を知っておいてください。
- 地域包括支援センター:介護全般の相談窓口。無料で利用できます
- 認知症カフェ(オレンジカフェ):同じ立場の家族と話せる場所
- ケアマネジャー:サービス調整から精神的なサポートまで
- 訪問看護ステーション:在宅での専門的なケアと家族支援
OURでは、利用者本人のケアに加えて、「介護している家族の気持ちを聞く」ことも大切にしています。「最近しんどくて」「うまくいかないことが多くて」。そんな一言を、ぜひ話してください。
OUR訪問看護ステーションによるサポート体制
OUR訪問看護ステーション(宮崎市)では、看護師・PT・OTが連携してご自宅でのケアを提供します。全スタッフが厚生労働省の精神保健研修を修了しており、身体疾患から精神疾患まで幅広い対応が可能です。24時間のオンコール体制を整え、夜間・休日でも緊急対応します。
「どんな状態でもまず相談」というスタンスで、宮崎市・国富町・綾町・高岡町エリアに対応しています。ご相談はお電話(0985-77-8266)またはウェブフォームからどうぞ。
よくある質問
認知症の親に「認知症だよ」と伝えるべきですか?
これは非常に難しい問いです。初期段階であれば、本人も「自分はおかしい」と気づいていることが多く、病名を知ることで「だから〇〇が難しいんだ」と納得できることもあります。一方で、告知によって本人が深く落ち込むケースもあります。主治医や担当ケアマネと相談しながら、本人の性格や状態に合わせて判断することをおすすめします。
介護拒否(お風呂に入らない、薬を飲まないなど)への対応は?
拒否の多くは「怖い」「恥ずかしい」「自分ではできる」という気持ちから来ています。「〇〇しなきゃダメ」という言い方ではなく、「一緒にやろうか」「気持ちいいよ」と誘い水をかけてみましょう。それでも難しい場合は、ヘルパーや訪問看護師など、家族以外の第三者が関わることで素直に応じることがあります。家族に対してだけ拒否が強い、というのはよくあることです。
デイサービスに行くのを嫌がります。どう説得すればよいですか?
「デイサービスに行きなさい」ではなく、「〇〇さん(スタッフ)に会いに行こうよ」「みんなでご飯食べると美味しいよ」など、楽しみにフォーカスした声かけが効果的です。最初の数回は不安で泣く方もいますが、慣れると「行きたい」に変わることがほとんどです。
夜中に起き出して困っています。眠れない原因は何ですか?
昼間の活動量が少ない・昼寝が多い・痛みや不快感がある・睡眠の質が落ちている——さまざまな原因が考えられます。まず主治医に相談することをおすすめします。昼間に適度な運動や外出を取り入れることで改善することもあります。訪問看護師が生活リズムのアドバイスをすることも可能です。
認知症の親と離れて暮らしています。遠くからできることはありますか?
定期的な電話・ビデオ通話は有効です。声や顔を見ることで安心感が生まれます。また、地域のケアマネジャーや訪問看護ステーションと連絡先を交換しておき、「何かあれば連絡をください」と伝えておくことが大切です。「遠くにいる家族がいる」ということが、支援者にとっても心強い情報です。
認知症の介護でどのくらい費用がかかりますか?
介護サービスは介護保険を使うことで1〜3割の自己負担で利用できます。要介護度によって使えるサービスの量が変わります。まだ介護認定を受けていない場合は、地域包括支援センターに相談して認定申請から始めましょう。OURの訪問看護も介護保険・医療保険の両方で対応しています。
まとめ:親との時間は、今日も積み重なっている
- 認知症の言動には必ず理由がある。理由がわかると、対応が変わる
- 叱るより、共感の一言から始めることが関係を穏やかにする
- 進行段階に合わせて関わり方をシフトしていくことが大切
- 介護者自身の心と体を守ることも、立派な介護の一部
- 一人で抱え込まず、専門家や地域の資源を活用してほしい
「正しく介護しなければ」と力みすぎていませんか。親はきっと、完璧なケアより、あなたの笑顔を見たいはずです。
今日できる一歩:今日、親に「ありがとう」か「おいしかった?」の一言を伝えてみてください。小さな言葉が、穏やかな時間をつくります。
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参考文献一覧
- 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000064084.html
- 認知症の人と家族へのアドバイス(公益社団法人 認知症の人と家族の会)https://www.alzheimer.or.jp/
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