
「退院してから、別人みたいになってしまった」「何度言っても同じことを聞いてくる。怒らないようにしようと思っても、限界がくる」「怒鳴るようになって、こっちが怖い」。高次脳機能障害のある方を在宅で介護しているご家族の声です。
高次脳機能障害の難しさは、「障害が外から見えない」ことです。体の麻痺と違って、理解や記憶や感情のコントロールの問題は、周囲からは「やる気がない」「わがまま」「性格が悪くなった」と受け取られることが多く、家族もその本質を理解するまでに時間がかかります。
この記事では、高次脳機能障害のある方への具体的な対応の仕方と、介護をする家族のストレス対策について、宮崎市のOUR(アワー)訪問看護ステーションが詳しく解説します。
宮崎市全域、国富町、高岡町、綾町対応
“あなたらしい”在宅生活を、24時間・365日サポートします
☎ 0985-77-8266受付時間:9時〜17時
まず知ってほしい:「意地悪でも、やる気がないわけでもない」
高次脳機能障害の家族支援において、最初にして最も大切なことは「これは脳の損傷による症状であり、本人の意思や性格の問題ではない」という理解です。
何度言っても同じことを聞いてくるのは「記憶障害」。怒りっぽくなったのは「社会的行動障害」。料理や家事ができなくなったのは「遂行機能障害」。これらはすべて、脳の特定の部位がダメージを受けたことで起きている症状です。
「なぜこんなこともできないの」「さっき言ったばかりでしょ」という言葉は、本人をさらに傷つけ、状態を悪化させることがあります。家族が「脳の病気だから仕方ない」と知識として理解することが、対応を変える第一歩になります。
国立障害リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センターでも、家族向けの情報や相談窓口が提供されています。
症状別の具体的な対応の仕方
記憶障害への対応
基本方針:「覚えさせようとしない、仕組みで補う」
何度も同じことを聞いてくる状況で、家族は「さっき言った」と返したくなります。しかし記憶障害のある方は本当に覚えていないので、そう言われてもどうしようもなく、自尊心が傷つくだけです。
効果的な対応:
- ホワイトボードやメモを活用する: 今日の予定、服薬の確認、外出した時間などを見える場所に書いておく
- 手順書を作る: 朝の準備の順番、服薬の手順などをラミネートして貼っておく
- スマートフォンのアラームやカレンダーを使う: 本人に設定してもらうことで自己管理感を保てる
- 同じことを聞かれても、穏やかに答える: 「さっき言った」より「そうだね、○時だよ」と答える方が本人の安心につながる
注意障害への対応
基本方針:「環境を整えて、ひとつずつ」
注意障害があると、騒がしい環境では話が入りにくく、複数のことを同時に頼まれると混乱します。
効果的な対応:
- テレビを消してから話しかける: BGMや映像があると注意が分散する
- 一度に一つだけお願いする: 「歯を磨いて、着替えて、朝ごはん食べて」を一度に言わない
- 短くシンプルな言葉で伝える: 複雑な説明より「○○してね」の一言が伝わりやすい
- 声かけのタイミングを選ぶ: 本人が別のことに集中しているときに割り込まない
遂行機能障害への対応
基本方針:「指示や手順を提供する、一緒にやってみる」
遂行機能障害があると、「何から始めればいいか」がわからなくて動けなくなります。「やる気がない」のではなく、「何をどうすればいいかがわからない」状態です。
効果的な対応:
- 「まず○○してみようか」と最初の一歩を言葉にする: 動き出すきっかけがあれば続けられることが多い
- 最初だけ一緒にやる: 並走することで「次はどうするか」が見えてくる
- やることを「見える化」する: チェックリストや手順書で「今何をすべきか」を視覚化する
- できたことを認める: 「やって当たり前」ではなく「できたね」という声かけが本人の意欲を引き出す
社会的行動障害への対応
基本方針:「怒りに怒りで返さない、その場を離れることも選択肢」
突然怒り出す・大声を出す・同じことにこだわり続ける——これは脳の損傷による症状であり、本人も「なぜそうなるか」が分かっていないことが多いです。
効果的な対応:
- 言い返さない: 怒りに怒りで返すとエスカレートする。穏やかに「少し休もうか」と場を変える
- 刺激を減らす: 騒がしい環境、急かされる状況が怒りのトリガーになることが多い
- 「固執」には付き合いすぎない: 「それはまた後で考えよう」と流して次の話題に移る
- 暴力がある場合は専門家に相談する: 一人で抱え込まず、訪問看護師・ケアマネジャーに状況を伝える
家族のストレス対策:「介護者が倒れては元も子もない」
高次脳機能障害の在宅介護は、身体介護よりも精神的な消耗が大きいと言われます。理由は明確で、「見えない障害」への対応は、周囲から理解されにくく、家族が孤立しやすいからです。
燃え尽きのサインに気づく
次のサインが出ていたら、介護者自身のケアが必要な状態です。
- 「もう限界」「消えてしまいたい」という気持ちが続く
- 食欲がない、眠れない日が続く
- 本人に対して強い怒りや嫌悪感が続く
- 笑えなくなった、楽しいことが何もなくなった
- 自分の健康管理を放棄している
こうした状態になる前に、次の対策を意識的に取り入れてください。
①介護の「時間」を分担する
家族一人が24時間介護を担うのは不可能です。訪問看護・デイサービス・ショートステイなどのサービスを組み合わせて、介護者が「自分の時間」を確保することが持続的な在宅介護の前提です。
- 訪問看護: 週1〜3回、1回30〜90分。看護師・OT/PT/STが訪問しケアを担う
- デイサービス・デイケア: 日中のあずかり。介護者は休息できる
- ショートステイ: 数日〜1週間程度の施設宿泊。長期介護の「中休み」として活用
②「ひとりで抱え込まない」を原則にする
高次脳機能障害の家族支援については、宮崎県の高次脳機能障がい支援体制のもと、相談窓口・家族会・専門支援機関が整備されています。
利用できる相談先:
- 宮崎市福祉部 障がい福祉課
- 宮崎県身体障害者相談センター
- 家族会(みやざき高次脳機能障がい家族会 あかり)
- 担当ケアマネジャー
- 訪問看護ステーション(OURへの相談は0985-77-8266)
③「怒ってしまった自分」を責めない
完璧に対応できる介護者はいません。怒ってしまっても、疲れてしまっても、それは人間として当然のことです。「また怒ってしまった」と自分を責めるより、「今日は疲れていたな。サービスを増やそう」と次の一手を考える方が建設的です。
OURの訪問看護師・OTは、利用者本人のケアだけでなく、家族の状況を聞き、一緒に考えることを大切にしています。「このままで大丈夫か不安」という気持ちを、訪問のときに話してもらえれば、サービス調整・ケアマネジャーとの連携など次のステップを一緒に考えます。
FAQ
Q1. 何度言っても同じことを聞いてきます。どう対応すれば?
記憶障害の症状です。「さっき言った」と返すのではなく、メモやホワイトボードに書いて「見れば分かる環境」を作ることが根本的な対策です。同じ質問に穏やかに答えることで、本人の不安が軽減されます(参考:国立障害リハビリテーションセンター)。
Q2. 突然怒り出すことが怖いです。どうすれば?
感情コントロールの障害(社会的行動障害)です。怒りに怒りで返さず、刺激を減らす・場を変えることが基本です。暴力・危険な状況がある場合は一人で抱え込まず、担当ケアマネジャーや訪問看護師にすぐ相談してください。
Q3. 家族だけで介護を続けることに限界を感じています
それは当然の感覚です。高次脳機能障害の在宅介護は精神的な消耗が大きく、一人で全部を担うのは不可能です。訪問看護・デイサービス・ショートステイを組み合わせて、介護者自身の「休める時間」を確保してください。まずケアマネジャーかOURにご相談ください。
Q4. 本人が「自分に障害がある」とわかっていないようです
「病識の欠如(アノソグノジア)」という症状で、高次脳機能障害によく見られます。本人が障害を認識できないため、「なぜサポートが必要か」が理解できないことがあります。強引に「あなたは障害がある」と伝えようとするより、「一緒にできることをやる」スタイルが関係を保ちやすいです。OTや訪問看護師がフォローします。
Q5. 介護で自分の時間が全くありません。何か使えるサービスはありますか?
はい。介護保険サービスでは、デイサービス(日中のあずかり)・デイケア(リハビリ目的)・ショートステイ(短期施設入所)が利用できます。要介護・要支援の認定を受けていれば、ケアマネジャーを通じてケアプランに組み込むことができます。OURでは訪問看護として在宅でのサポートも行っています。
まとめ
高次脳機能障害の家族介護は、症状の理解から始まります。「意地悪でも、やる気がないわけでもない——脳の損傷による症状だ」という知識が、対応を変える第一歩です。症状別の対応の仕方を実践しながら、訪問看護・デイサービス・相談窓口を積極的に使って、家族自身の心と体も守ってください。
宮崎市全域、国富町、高岡町、綾町対応
“あなたらしい”在宅生活を、24時間・365日サポートします
☎ 0985-77-8266受付時間:9時〜17時
参考情報
- 国立障害リハビリテーションセンター「高次脳機能障害情報・支援センター」
- 厚生労働省「高次脳機能障害者支援法について」
- 日本高次脳機能学会
- 宮崎県「高次脳機能障がいについて」(支援協力医療機関・相談窓口一覧掲載)