
脳梗塞や交通事故の後、「なんだか様子がおかしい」と感じながら、何が原因なのか、どんな状態なのかわからないまま日々を過ごしているご家族は少なくありません。
高次脳機能障害は、脳が損傷を受けたことで「記憶」「注意」「判断」「行動の計画・実行」「コミュニケーション」といった脳の高度な働きに支障が出る状態です。麻痺や言語障害とは異なり、外見からはわかりにくいことが多く、「なぜこんなこともできないのか」と家族が苦しんでしまうケースが後を絶ちません。
この記事では、高次脳機能障害の原因となる疾患・脳損傷の仕組み・障害の種類・診断の流れについて、宮崎市のOUR(アワー)訪問看護ステーションが詳しく解説します。「何が起きているのかをまず知りたい」という方に、まず読んでいただきたい内容です。
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高次脳機能障害はどんな原因で起きるのか
高次脳機能障害は、脳のある部位がダメージを受けることで引き起こされます。原因となる疾患・外傷はさまざまですが、日本で最も多いのは脳血管疾患(脳卒中)です。
国立障害リハビリテーションセンターの「高次脳機能障害情報・支援センター」によると、高次脳機能障害のある人は全国で約30万人(2020年代推計)にのぼると考えられており、その多くが脳卒中後遺症として発症しています。また2026年4月1日には「高次脳機能障害者支援法(厚生労働省)」が施行され、社会全体での支援体制が法的に整備されました。
原因疾患と発症の特徴
| 原因疾患 | 特徴 |
|---|---|
| 脳梗塞 | 血管が詰まり、血流が途絶えた部位が壊死。損傷部位が比較的限局的 |
| 脳出血 | 血管が破れ脳内で出血。血腫が周辺組織も圧迫するため広範囲に影響が出やすい |
| くも膜下出血 | 脳表面の動脈瘤が破れる。急性期の脳浮腫・水頭症が広範囲に影響 |
| 頭部外傷(交通事故など) | びまん性軸索損傷により脳全体の神経線維が広範囲にダメージを受ける |
| 脳炎・低酸素脳症 | 感染症、心停止後の低酸素状態などで脳全体が影響を受ける |
重要なのは「どこが損傷したか」です。脳の部位によって生じる高次脳機能障害の種類が異なります。前頭葉が損傷されると「遂行機能障害(計画・実行する力の低下)」が現れやすく、側頭葉の損傷では「記憶障害」が目立つことが多くなります。
頭部外傷で注意が必要な「びまん性軸索損傷」
交通事故による頭部外傷では、「びまん性軸索損傷」といって脳全体の神経線維が広範囲にダメージを受けることがあります。このため「全体的な処理速度の低下」「注意の持続困難」「易疲労性(すぐ疲れる)」などが複合して現れることが多く、MRIで明確な病変が映らないこともあります。
「画像では異常がない」と言われても、神経心理検査では明確な障害が確認されることがある——これが頭部外傷後の高次脳機能障害の難しさです。
高次脳機能障害の種類と主な症状
高次脳機能障害は単一の状態を指す言葉ではなく、複数の障害が重なって生じる症候群です。国立障害者リハビリテーションセンターが示す行政的診断基準では、①記憶障害 ②注意障害 ③遂行機能障害 ④社会的行動障害 の4つが主な診断根拠とされています。
①記憶障害
最も多く見られる症状の一つです。出来事の記憶(エピソード記憶)が特に影響を受けやすく、「さっき話した内容をすぐ忘れる」「同じことを何度も聞いてくる」「デイサービスに行ったことを覚えていない」といった形で現れます。
一方、身体で覚えた動作(手続き記憶)——自転車の乗り方、箸の使い方——は比較的保たれることが多いです。これは大脳とは別の神経回路(小脳・基底核)が関与しているためです。
家族がつらいのは、「自分のことを忘れられた」と感じてしまうことですが、これは意図的なものではなく脳のシステムの損傷による症状です。
②注意障害
注意の機能は複数の種類に分かれており、それぞれ異なる形で日常生活に影響します。
| 注意の種類 | 内容 | 日常での困りごと例 |
|---|---|---|
| 持続的注意 | 一定時間集中し続ける | テレビをすぐ消したがる、会話が途中で途切れる |
| 選択的注意 | 必要な情報だけに集中する | 騒がしい場所では話が全く入ってこない |
| 分配的注意 | 複数のことを同時にする | 料理しながら話しかけると固まってしまう |
| 転換的注意 | 注意を切り替える | 一つのことにこだわり切り替えができない |
注意障害は他の障害(記憶障害・遂行機能障害)を悪化させるため、「まず注意機能のリハビリから」という考え方が作業療法の現場では一般的です。
③遂行機能障害
「段取りができない」「途中でやめてしまう」「自分で計画・判断できない」。これが遂行機能障害です。前頭葉の機能低下と関係が深く、「何をすべきか指示しなければ動けない」「指示通りにはできるが自発的に行動できない」という形で現れます。
家族が「なぜこんなに受け身になったんだろう」と感じるケースの多くは、遂行機能障害が関わっています。
日常生活での典型的なシーン:
- 朝の準備の手順がわからなくなり途中で立ち止まる
- 料理で「次に何をすればいいか」がわからず手が止まる
- 外出の準備に何時間もかかる
- 計画が立てられず、約束を守れない
④社会的行動障害
最も周囲に理解されにくい症状です。感情のコントロールが難しくなり、ちょっとしたことで激しく怒る・泣く・固執するといった行動が出ます。また意欲の低下(アパシー)として、何事にも無関心・無反応に見えることもあります。
「性格が変わった」と言われることが多いのは、まさにこの社会的行動障害によるものです。
主な症状:
- 突然怒り出す(易怒性)
- 場の空気が読めない、TPOに合わない言動
- 他者への無関心(共感力の低下)
- 自己中心的な言動の増加
- 頑固さ・固執性の増強
- やる気がなくなる(アパシー)
高次脳機能障害の診断はどのように行われるか
「高次脳機能障害ではないか」と思ったとき、どこに行けばよいのでしょうか。
診断の流れ
1. まずかかりつけ医・主治医に相談する 退院後に症状が出てきた場合、まずは入院先の主治医または脳神経外科・神経内科の担当医に相談しましょう。「退院してから様子がおかしい」と具体的なエピソード(いつ・どんな場面で・どんなことが起きたか)を伝えることが重要です。
2. 神経心理検査を受ける 診断には神経心理検査が用いられます。医療機関の心理士・作業療法士が検査を実施します。
代表的な検査:
- MMSE(ミニメンタルステート検査): 認知機能の簡易スクリーニング
- FAB(前頭葉機能検査): 遂行機能・社会的行動障害を評価
- TMT(トレイルメイキングテスト): 注意機能を評価
- WMS-R(ウェクスラー記憶検査): 記憶機能を詳細に評価
3. 画像検査(MRI・CT)で脳損傷部位を確認する 神経心理検査の結果と画像所見を組み合わせて、損傷部位と症状の対応関係を確認します。頭部外傷などでは画像に明確な異常が映らないこともありますが、その場合でも神経心理検査の結果が診断根拠になります。
4. 診断・障害の整理、福祉制度の利用へ 確立された高次脳機能障害の診断基準に基づき、診断が確定します。診断がつくことで、障害者手帳・障害年金・就労支援・自立支援医療などの福祉制度を利用できるようになります(詳しくは高次脳機能障害で使える制度の記事をご参照ください)。
認知症との違い
「高次脳機能障害」と「認知症」は混同されやすいですが、発症の仕組みと経過が異なります。
| 項目 | 高次脳機能障害 | 認知症(アルツハイマー型) |
|---|---|---|
| 発症 | 脳損傷後に突然発症 | 緩やかに進行 |
| 経過 | リハビリ効果が期待できる(改善の余地あり) | 基本的に進行性(完治はない) |
| 年齢 | 若年層・中年層にも多い | 主に高齢者 |
| 原因 | 脳梗塞・外傷など明確な原因あり | 神経変性(アミロイドβの蓄積等) |
| 発症前の記憶 | 比較的保たれる | 失われていく |
高次脳機能障害は「突然の出来事(脳損傷)による後遺症」であり、適切なリハビリと環境整備によって回復が期待できる点が大きな違いです。
在宅での早期対応がなぜ重要か
高次脳機能障害は、退院後の生活環境の中でリハビリが続けられるかどうかで予後が大きく変わります。
「生活期リハビリ」という考え方
急性期・回復期病院での入院リハビリは発症後3〜6ヶ月が中心ですが、高次脳機能障害の回復は入院中だけでは終わりません。実際の生活の中でこそ、注意機能・記憶・遂行機能を使う機会があります。「病院でのリハビリは終わった」と言われた後も、家での料理・外出・人との会話を通じて脳が再編成(可塑性)されることが期待できます。
訪問看護のOT(作業療法士)が在宅でできること:
- 実際の家事・生活動作の中で遂行機能を評価・訓練する
- 注意障害に合わせた環境調整(手順書の作成・物の置き場所の統一など)
- 家族への関わり方の指導(「こう声をかけると動きやすい」など)
- 外出訓練・公共交通機関利用の練習
- 社会参加(就労・地域活動)に向けた段階的な支援
宮崎市での相談窓口
宮崎市には宮崎県高次脳機能障害支援センター(宮崎県こころの医療センター内)が設置されており、相談・神経心理検査・就労支援などを行っています。OUR(アワー)訪問看護ステーションはこうした専門機関とも連携しながら、在宅での生活支援にあたっています。
また、2026年4月施行の「高次脳機能障害者支援法」により、市町村レベルでの相談支援体制がさらに充実しつつあります。宮崎市の障がい福祉課(0985-21-1772)でも相談・サービス申請が可能です。
FAQ
Q1. 高次脳機能障害は脳梗塞の後以外でも起きますか?
はい。脳出血・くも膜下出血・頭部外傷・脳炎・低酸素脳症(心停止後など)でも起こります。交通事故後や感染症後に「なんとなく変わった」と感じる場合も、高次脳機能障害の可能性があるため、神経内科または専門の支援センターへのご相談をお勧めします(参考:国立障害リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター)。
Q2. MRIで異常がなければ高次脳機能障害ではないですか?
そうではありません。特に頭部外傷(びまん性軸索損傷)の場合、MRI・CTに明確な病変が映らなくても、神経心理検査で高次脳機能障害と診断されることがあります。画像所見だけで判断せず、神経心理検査を含めた総合的な評価が必要です。
Q3. 高次脳機能障害の診断はどこで受けられますか?
脳神経外科・神経内科・リハビリテーション科のある病院が主な受診先です。宮崎県では宮崎県高次脳機能障害支援センター(宮崎県こころの医療センター内)が専門的な相談・検査に対応しています。また、国立障害リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センターのウェブサイトでも全国の支援センターを検索できます。
Q4. 高次脳機能障害は治りますか?
完全に元に戻るかどうかは損傷の部位・範囲・発症からの期間によって異なります。ただし、脳の可塑性(再編成)により、適切なリハビリと生活環境の整備でかなりの改善が期待できます。特に発症から数年以内は回復の余地が大きいとされており、早期からのリハビリが重要です(参考:国立障害者リハビリテーションセンター)。
Q5. 記憶・注意・遂行機能・社会的行動の4つの障害はすべてが出るのですか?
全員にすべての症状が出るわけではありません。損傷した脳の部位・範囲によって、どの機能に影響が出るかが異なります。また複数の障害が重なるケースも多いです。専門の神経心理検査でどの機能がどのくらい低下しているかを把握することで、適切なリハビリ計画が立てられます。
Q6. 退院後に訪問看護のOTに来てもらえますか?
はい。OUR(アワー)訪問看護ステーションでは、高次脳機能障害の在宅リハビリ・生活支援を作業療法士(OT)が担当します。医師の訪問看護指示書があれば、医療保険または介護保険でご利用いただけます。まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
高次脳機能障害は、脳梗塞・脳出血・頭部外傷などによる脳損傷が原因で起きる、記憶・注意・遂行機能・社会的行動に関わる障害です。外見からわかりにくいため「見えない障害」とも呼ばれますが、適切なリハビリと環境整備で回復が期待できます。2026年4月施行の「高次脳機能障害者支援法」により、支援体制も整いつつあります。
「なんとなく変わった気がする」と感じたときは、まずかかりつけ医や支援センターへの相談を。訪問看護のOTが在宅で継続的に関わることで、生活の質は大きく改善できます。
宮崎市全域、国富町、高岡町、綾町対応
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☎ 0985-77-8266受付時間:9時〜17時
参考情報
- 国立障害リハビリテーションセンター「高次脳機能障害情報・支援センター」
- 厚生労働省「高次脳機能障害者支援法について」(令和8年4月1日施行)
- 日本高次脳機能学会
- 宮崎県「高次脳機能障がいについて」(支援協力医療機関・確定診断可能医療機関一覧掲載)