
「物忘れがひどい」「怒りっぽくなった」こうした症状は、高次脳機能障害でも認知症でも見られることがあります。ご家族から「これは認知症なのか、それとも別の病気なのか」というご相談を受けることが少なくありません。
この記事では、高次脳機能障害と認知症の違いを、原因・症状の現れ方・進行のパターンという3つの観点から整理して解説します。
最大の違いは、原因となる脳の損傷が「一時的な出来事」か「持続的な変性」かという点です
高次脳機能障害は、脳卒中や頭部外傷、低酸素脳症など、多くは特定の日時に起きた脳の損傷が原因です。損傷そのものは基本的にそこで完結し、その後の経過は回復かリハビリによる改善、あるいは症状の固定という形をたどります。
たとえば脳梗塞であれば、発症から数週間〜数か月の急性期・回復期を経て、その後は比較的落ち着いた状態(生活期)に移行するという経過が一般的です。
一方、認知症疾患診療ガイドライン2026(日本神経学会監修)が対象とするアルツハイマー病やレビー小体型認知症などは、脳の神経細胞が徐々に変性・脱落していく進行性の病気です。原因となる脳の変化が「続いている」ことが、高次脳機能障害との大きな違いです。
症状の始まり方も異なり、高次脳機能障害は比較的急に、認知症は緩やかに始まります
高次脳機能障害は、脳卒中や事故の発症・受傷をきっかけに、比較的短期間で症状が現れます。「いつから」症状が始まったかがはっきりしていることが多いのが特徴です。
認知症の多くは、「いつからかはっきりしないが、数か月〜数年かけて少しずつ物忘れが増えてきた」というように、緩やかに進行します。ご本人・ご家族が異変に気づくまでに時間がかかることも珍しくありません。
そのため、認知症は「気づいたときにはすでにある程度進行していた」というケースも少なくなく、早期発見のためには定期的な健診や、家族による日頃の観察が重要とされています。
経過のパターンも異なり、高次脳機能障害は改善も期待できる一方、多くの認知症は進行性です
高次脳機能障害では、発症後の時間経過とリハビリによって症状が軽減することが期待できます。もちろん重症度や損傷部位によって差はありますが、「今より良くなる可能性がある」という点は、認知症との大きな違いです。
一方、アルツハイマー病などの多くの認知症は進行性の病気であり、現在の医療では根本的に進行を止めることは難しいとされています。ただし、適切な治療とケアによって進行を緩やかにしたり、生活の質を保ったりすることは可能です。
近年は早期診断・早期治療の重要性が強調されており、進行を遅らせる薬物療法や非薬物療法(リハビリ・生活支援)を組み合わせることで、できるだけ長く自立した生活を続けることを目指します。
記憶障害の現れ方にも違いがあり、高次脳機能障害では発症前の記憶が比較的保たれます
高次脳機能障害の記憶障害は、「新しいことを覚える力」が特に影響を受けやすく、発症・受傷より前の記憶(過去の出来事や知識)は比較的保たれる傾向があります。一方、多くの認知症では、進行とともに過去の記憶も含めて徐々に失われていく経過をたどります。
併発することもあり、脳卒中の後に血管性認知症を発症するケースもあります
高次脳機能障害と認知症は、必ずしも別々の状態とは限りません。脳卒中を繰り返すことで血管性認知症を発症する場合など、高次脳機能障害と認知症の症状が併存することもあります。症状の背景を正確に把握するためには、専門医による診断と評価が重要です。
このようなケースでは、脳血管障害の再発予防(血圧管理・服薬管理)と、認知機能低下への対応の両方が必要になるため、訪問看護が担う役割も大きくなります。
見分けがつきにくいときは、専門医療機関での神経心理学的検査が手がかりになります
ご家族だけで「これは高次脳機能障害か認知症か」を判断するのは難しいことがほとんどです。脳神経外科・神経内科・精神科など、高次脳機能障害や認知症の診療に詳しい医療機関を受診し、画像検査(MRI・CTなど)や神経心理学的検査を通じて評価を受けることが、正確な診断への近道です。
よくある質問
若年性認知症と高次脳機能障害は同じものですか?
異なります。若年性認知症は65歳未満で発症する認知症の総称で、原因は変性疾患や脳血管障害などさまざまです。高次脳機能障害は特定の脳損傷による認知機能障害を指すため、原因や定義が異なります。ただし脳血管障害が原因の場合、両者が関連することもあります。
高次脳機能障害から認知症に移行することはありますか?
高次脳機能障害そのものが認知症に「移行する」わけではありませんが、原因疾患(脳卒中など)を繰り返すことで血管性認知症を発症するケースはあります。定期的な受診と、再発予防のための生活管理が重要です。
診断名がはっきりしないまま在宅ケアを続けても大丈夫ですか?
できるだけ早い段階で正確な診断を受けることをお勧めします。原因によって使える制度やリハビリの方針、進行の見通しが異なるため、診断が定まることで今後の生活設計を立てやすくなります。
訪問看護は高次脳機能障害と認知症、どちらにも対応できますか?
対応できます。どちらの場合も、症状に応じた生活支援・リハビリ・家族への助言を組み合わせて関わります。診断名にかかわらず、まずは今の生活の困りごとをご相談ください。
まとめ
今日できる一歩:症状がいつから始まったか、急に始まったのか少しずつ現れたのかを振り返ってみてください。受診の際にこの情報を伝えることで、診断の手がかりになります。
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参考文献一覧
- 「高次脳機能障害」診断基準(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部、国立障害者リハビリテーションセンター)
- 認知症疾患診療ガイドライン2026(日本神経学会監修、2026年)
- 高次脳機能障害情報・支援センター(国立障害者リハビリテーションセンター)
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この記事を監修した人
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看護・リハビリチーム
看護師7名・理学療法士1名・作業療法士3名 / 宮崎市
宮崎市を中心に24時間・365日の訪問看護を提供。在宅透析・人工呼吸器・CV管理などの高度医療処置から生活期リハビリまで対応。「あなたらしさをともにつくる」を理念に、認定作業療法士・中田富久が代表を務め、医師・ケアマネジャーと連携し利用者一人ひとりの在宅生活を支援している。帝人ファーマ「みんなの訪問看護アワード2026」大賞受賞。