
「さっき話したことをもう忘れている」「同じ質問を何度も繰り返す」脳卒中や頭部外傷の後に見られる記憶障害は、高次脳機能障害の中でも特にご家族が戸惑いやすい症状のひとつです。
この記事では、高次脳機能障害における記憶障害の特徴と、在宅生活の中でできる具体的な対応方法を解説します。
記憶障害とは、新しい情報を覚えて後から思い出す力が低下する症状です
高次脳機能障害の記憶障害は、脳卒中や頭部外傷などによる脳の損傷が原因で、新しい体験や情報を記憶にとどめる働きが低下することで起こります。厚生労働省・国立障害者リハビリテーションセンターの診断基準でも、記憶障害は高次脳機能障害を構成する代表的な認知障害のひとつとして挙げられています。
発症前の記憶(遠隔記憶)は比較的保たれ、新しい記憶(近時記憶)が影響を受けやすい特徴があります
多くの場合、脳が損傷を受ける前の出来事や、長年培ってきた知識・技能は比較的保たれます。一方で、「今日の朝ごはんに何を食べたか」「さっき来客があったこと」といった、新しく起きた出来事を覚えておく力が特に影響を受けやすいとされています。「昔のことはよく覚えているのに、最近のことをすぐ忘れる」という現れ方が典型的です。
生活の中では、同じ話の繰り返しや約束忘れという形で現れます
同じ話や質問を何度も繰り返す、少し前に伝えたことを覚えていない、薬を飲んだこと自体を忘れる、訪問の予定を忘れてしまう、といった場面が見られます。本人は「忘れている」という自覚がないまま話していることが多く、指摘されても納得できないことがあります。
対応の基本は、記憶に頼らず情報を「外部化」する仕組みをつくることです
カレンダーやホワイトボードに予定を書いておく、服薬カレンダーやピルケースを使う、メモを目につく場所に貼る、スマートフォンのリマインダー機能を使うなど、覚えておくこと自体を減らす工夫が有効とされています。大切なのは、「思い出させよう」とするより「思い出さなくても困らない仕組み」を作る発想です。
同じ話の繰り返しには、否定せず穏やかに応じることが基本的な関わり方です
「さっきも言ったでしょう」と指摘しても、本人には覚えている実感がないため、混乱や不安、時には怒りにつながることがあります。繰り返しに付き合うことが難しい場面もありますが、可能な範囲で穏やかに応じ、話題を自然に切り替えるといった対応が、ご本人の安心感を保つことにつながります。
訪問看護では、生活の中での記憶の使われ方を確認しながら支援方法を一緒に考えます
OURでは、実際の生活場面(服薬、通院、家事など)でどのタイミングで記憶が影響しているかを確認し、その方の生活パターンに合った工夫を一緒に組み立てます。ご家族だけで抱え込まず、専門職と一緒に対応方法を見つけていくことが、負担の軽減につながります。
よくある質問
記憶障害はリハビリで改善しますか?
損傷の程度や部位、発症からの期間によって経過は異なります。記憶そのものを回復させる訓練に加えて、メモやカレンダーなどの代償手段を身につける訓練も、生活の質を高める重要なアプローチとされています。
認知症の物忘れとの違いは何ですか?
高次脳機能障害の記憶障害は特定の脳損傷が原因で、発症前の記憶は比較的保たれる傾向があります。一方、多くの認知症は緩やかに進行し、過去の記憶も含めて徐々に失われていく点が異なります。
本人に「忘れている」と伝えるべきですか?
状況によりますが、頭ごなしに指摘するより、メモを一緒に確認するなど、自然な形で気づきを促す関わり方が望ましいとされています。強い指摘は自尊心を傷つけ、関係性の悪化につながることもあります。
記憶障害があっても一人で留守番はできますか?
症状の程度によって個人差が大きく、一律には言えません。訪問看護やリハビリ専門職による生活場面の評価を通じて、どこまで一人で対応できるかを具体的に確認することをお勧めします。
まとめ
今日できる一歩:よく忘れてしまう内容(服薬・予定など)を、カレンダーやメモに書き出して目につく場所に貼ってみてください。記憶に頼らない仕組みづくりの第一歩になります。
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参考文献一覧
- 「高次脳機能障害」診断基準(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部、国立障害者リハビリテーションセンター)
- 高次脳機能障害情報・支援センター(国立障害者リハビリテーションセンター)
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この記事を監修した人
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OUR訪問看護ステーション
看護・リハビリチーム
看護師7名・理学療法士1名・作業療法士3名 / 宮崎市
宮崎市を中心に24時間・365日の訪問看護を提供。在宅透析・人工呼吸器・CV管理などの高度医療処置から生活期リハビリまで対応。「あなたらしさをともにつくる」を理念に、認定作業療法士・中田富久が代表を務め、医師・ケアマネジャーと連携し利用者一人ひとりの在宅生活を支援している。帝人ファーマ「みんなの訪問看護アワード2026」大賞受賞。